何か嫌な声が聞こえてきた気がする。
『か』から始まって『ん』で終わる、そんな奴の声がする。
…無視だ無視。
きっと疲れているんだ。
あ、このタルト、苺ムースになってるんだ。
わ、生クリームふわふわ、いやこれはもうふぁわふぁわではないのか。
そういえば今席を外している美緒のとったチョコミルフィーユも美味しそうだ。
後で取りに行こう。
なんと、疲れていたわけではなかったようだ。
沈む気持ちを甘い宝石で無理やりにでも上げて振り向いた。
精一杯の笑みを作れば安心したように笑った元同級生の顔。
ほんと、ついてない。
川原の好きなものを覚えているという事実が、私が川原を好きだという事実に結びつく。
私の脳までもが敵に回り出したか。ちくしょう。
ほんと、最近の女こえ〜、と付け加える川原。
その怖い女がここにはたくさんいるんだけど。
まあそんな失言も顔で全てカバーしてしまうから恐ろしい。
そして、川原が先程の発言とともに指さした方向を見ると如何にもお姫様、なんて肩書きが似合う女性がお皿片手にケーキを眺めたていた。
服装からしてもきっとデート気分な気がする。
一応ではあるが、私も恋する乙女なのだ。
もちろん分かるに決まっている。
嫉妬。そんなことは分かっている。
うるさい。分からないくせに。
今度こそ。さようなら。
泣きそうな顔に下唇を噛むことで耐える。
最後、笑って手を振り、川原を送り出す。
ほんと、神様はずるくて意地悪だと思う。
どうしてこんな大の男に首を傾げさせるのだ。
そして私も、ダメだと、分かっているのに。
私は私に甘い。
あの同僚の子はきっと川原が好きなんだ。
ちゃんとお似合いの子がいるのに。
川原の優しさに漬け込んで。
自分が憎い。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。