第10話

#9
2,185
2020/05/23 04:15
少年刑務所、という名の牢にぶち込まれて。
どれ程の時が経ったのだろうか。
不死川実弥
……ぁ…う、…あぁぁ…ッッ!!
我に返って1番に頭に浮かぶのは、忘れもしないあいつの顔。
遅れてやってきた、頬を伝う何かを拭う。

けれども、止まることはなかった。

拭っても拭っても溢れ出る。
前が霞んで見えない。あぁ、痛い。
泣いて、泣いて。
泣き疲れて。
そして、時は止まることなく過ぎていって。




やがて、外。
不死川実弥
…あのクソ親父ィ……
かつて自分が住んでいた家の表札を見て、そう零す。
そこに書かれていたのは、



“不死川”



家主は変わらず、俺のままだった。
つーことは親父がずっと、払い続けてくれていた事になる。

俺に暴力を振るい続け、挙句の果てには女とずっと遊んでいたクソ親父。

…はっ、最後くらい父親面させろってか。
不死川実弥
チッ……
……俺の家の隣に建つ一軒家を一瞥する。
表札には、あいつの苗字が刻まれていた。
不死川実弥
……あなた
ぽつり、とその名前を呼ぶ。
不死川実弥
………なァ……あなた…ッッ
不死川実弥
……どこ、……行ったん、だよ…ッッ……
夏の夜空を仰いで。
不死川実弥
なァッッ……
俺のその掠れた声は、蝉の鳴き声に掻き消されて。
ポタポタと……目尻から大きな雫を零しながら。
不死川実弥
あ、…あぁッッ……
嗚咽混じりの、声で。
不死川実弥
……あなたッッ……どこ、だよォ……ッッ
不死川実弥
俺、置いて……













︎︎
不死川実弥
どこに、行っち…まったんだァ……ッッ
…心のどこかではわかっている筈なのに。
俺は、お前が居ないという現実を。



……受け止めようとしなかった。




















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