少年刑務所、という名の牢にぶち込まれて。
どれ程の時が経ったのだろうか。
我に返って1番に頭に浮かぶのは、忘れもしないあいつの顔。
遅れてやってきた、頬を伝う何かを拭う。
けれども、止まることはなかった。
拭っても拭っても溢れ出る。
前が霞んで見えない。あぁ、痛い。
泣いて、泣いて。
泣き疲れて。
そして、時は止まることなく過ぎていって。
やがて、外。
かつて自分が住んでいた家の表札を見て、そう零す。
そこに書かれていたのは、
“不死川”
家主は変わらず、俺のままだった。
つーことは親父がずっと、払い続けてくれていた事になる。
俺に暴力を振るい続け、挙句の果てには女とずっと遊んでいたクソ親父。
…はっ、最後くらい父親面させろってか。
……俺の家の隣に建つ一軒家を一瞥する。
表札には、あいつの苗字が刻まれていた。
ぽつり、とその名前を呼ぶ。
夏の夜空を仰いで。
俺のその掠れた声は、蝉の鳴き声に掻き消されて。
ポタポタと……目尻から大きな雫を零しながら。
嗚咽混じりの、声で。
︎︎
…心のどこかではわかっている筈なのに。
俺は、お前が居ないという現実を。
……受け止めようとしなかった。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。