……俺とお前の逃避行が始まったあの日から。
随分と時が経ち、夏の終盤に差し掛かった。
食料も底をついて、水は一滴もなくて。
ふらふらと…薄暗い道を歩いていれば、目の前もぼやけ始めてきた。
と、その時。
後ろから誰かが俺達に叫ぶ声が聞こえた。
サイレンの音と共に。
あー、くっそ……黙れよ、偽善者。
徐々に迫る、足音。
俺は残っている力を振り絞り、あなたの手を引いて路地裏へと逃げ込む。
入り組んでいて、ここなら直ぐには見つからないだろう。
馬鹿みてぇにはしゃぎあって、笑い合う。
お前は、最初の頃とは見違えるくらい清々しい顔をしていて。
……けど、どんどんその顔は曇っていった。
そして。
ふと……お前は。
ナイフを取り出し、自分の首に当てて…お前は。
突然謝った。
と、あなたは俺の言葉を遮って、
そしてあなたは、ゆっくりと口を開く。
頬を伝う何かがあった。
それは、永久に止まることはなくて。
その時、まるで俺の心情を表しているかのような。
……そんな、涙雨がこの地に降り注いだ。
そう言うとお前は……静かに、その綺麗な緑色の瞳から水滴を落として。
︎︎
︎︎
…赤い鮮血が、辺りに飛び散って。
そして。
………そして。
──…そしてお前は、首を切った。
next
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。