第8話

#7
2,173
2020/05/15 11:35
……俺とお前の逃避行が始まったあの日から。
随分と時が経ち、夏の終盤に差し掛かった。

食料も底をついて、水は一滴もなくて。
ふらふらと…薄暗い道を歩いていれば、目の前もぼやけ始めてきた。
あなた
実弥……。
不死川実弥
あなた……大丈夫だ、安心しろォ……
…俺がッッ……
と、その時。
後ろから誰かが俺達に叫ぶ声が聞こえた。

サイレンの音と共に。
警官
居たぞ!! 指名手配中の2人組だ!!
警官
女の方は人を殺してる!! 絶対に逃がすな!!
あー、くっそ……黙れよ、偽善者。
徐々に迫る、足音。

俺は残っている力を振り絞り、あなたの手を引いて路地裏へと逃げ込む。
入り組んでいて、ここなら直ぐには見つからないだろう。
あなた
…ふっ……ははっ…! 実弥!!
不死川実弥
はっ…んだァ、どしたァ?
馬鹿みてぇにはしゃぎあって、笑い合う。
お前は、最初の頃とは見違えるくらい清々しい顔をしていて。

……けど、どんどんその顔は曇っていった。
そして。
ふと……お前は。
あなた
……ごめんね
不死川実弥
ッッ…!?
ナイフを取り出し、自分の首に当てて…お前は。
突然謝った。
不死川実弥
おいお前ッッ…何して!!
あなた
私はさ、実弥。
……最初、絶望的な状況だったんだ。
あなた
人を、殺して、しまって。
もう何もかも……終わったって、思った。
あなた
……実弥にも、絶対……嫌われたって思ってた。
不死川実弥
んなわけッッ…
と、あなたは俺の言葉を遮って、
あなた
……分かってる。
実弥は、私の事を嫌ったりなんてしなかった。
あなた
一緒に、来てくれた。
2人で……実弥は、傍に居てくれた…。
あなた
……実弥のお陰で、楽しい日々を過ごせたよ。
最期の最後に、実弥は。
そしてあなたは、ゆっくりと口を開く。
あなた
──…“シアワセ”という四文字の言葉を……
教えて、くれたんだ。
不死川実弥
ッッ…ぁ
頬を伝う何かがあった。
それは、永久に止まることはなくて。

その時、まるで俺の心情を表しているかのような。
……そんな、涙雨がこの地に降り注いだ。
不死川実弥
お願いだッ……
あなた
……ごめん。
不死川実弥
やめろォッッ……
あなた
……もう、いいんだよ。
不死川実弥
…頼むから、ァッッ…!!!
あなた
実弥まで……死ぬ必要は無いの。
そう言うとお前は……静かに、その綺麗な緑色の瞳から水滴を落として。

あなた
……死ぬのは、私一人でいいよ。
不死川実弥
あなたッッ!! や、やめッッ………
あなた
ありがとう、実弥。










︎︎









あなた
──…愛してたよ。












︎︎














不死川実弥
な、なァ……あなた…?
…赤い鮮血が、辺りに飛び散って。





そして。











………そして。






























──…そしてお前は、首を切った。





















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