第4話

お話とお出かけ。
21
2021/06/14 20:21
朔
…ああ、あそこか。別にいいけど…
朔の目が泳いでる。
行きたくないのかな?そんなにイヤ?
るり
るり
…嫌だった?
朔
え、あ、いや。全然。るりが行きたいところに行きたいよ!
何、それ。ごまかしてるの?
明らかにおかしいじゃん。何を隠してるの。
るり
るり
無理しなくていいのに。
朔
…いや、ね。るりと出会ったのはペットショップでしょ?なんか、ペットショップってるりが行って楽しい気持ちになれるのかなって…
るり
るり
…?ペットショップって何?
ボクがそう言うと、朔は明らかに焦った顔をした。知らない言葉は朔から教えてもらっているけど、ペットショップという言葉は知らない。聞いたことない。
…ボクに教えたくないのかな。
朔
……
るり
るり
…ペットショップって、そんなに良くない場所なの?
朔
い、いや…それ自体は悪いものじゃないよ。でも、るりが行くのは…
朔、言葉に詰まってる。説明しづらいのか。ボクに見せたくないとか?いや、それならなんで見せたくないのか気になる。
るり
るり
ペットショップって何なの?教えてよ
朔
いや、それは…
また言葉を濁す。
なんでだよ。そんなにボクに知られたくない秘密があるのか?
るり
るり
…ねぇ。
朔
…っごめん。ペットショップは、その…
話してくれそうだ。気になったとはいえ、ちょっとかわいそうな事をしたな。
朔
…動物を売っている店だよ
るり
るり
…え
るり
るり
動物を売るだって?お金で取引してるの?
朔
………
るり
るり
…っ答えてよ!!
バァン!!と大きな音がする。手のひらが痛い、つい机を叩いてしまった。
でも、確かめなきゃ。そんな場所が、ボクと朔が出会った場所だというの?本当に?
朔
……そうだよ。いろんな動物を売ってる。それをお金で買って、家族になるんだ
ボクは言葉が出なかった。そんな、そんな形で家族になるなんて。そんなのって…なんか違うだろ。
ボクは愛されてる。それは間違いないけど、ボクも朔に金で買われてここへ来たの?
朔
ごめん、ごめんな…残酷だよな。これが普通なんだ。人間のことは金で取引なんてしないのに、動物は金で買われていく…るりからしたら理不尽だよね
るり
るり
……そんな…こんなのって…
ボクは…ボクはいくらしたんだろう。ボクのことを、朔は何円で買ったんだろう。
気になってそれを聞くと、朔は顔が真っ青になった。涙目でボクを見る。
そんな顔で見るなよ。ちょっと聞いてみただけじゃん。
朔
……言わなきゃ、だめなの?
朔の指先が震えている。朔はそれを隠すように手を握りしめる。
ボクは酷なことを言わせようとしているのは分かっていたけど、それでも尋ねた。
るり
るり
おしえて。
朔
………
朔は黙る。やっぱり答えてくれないか。さすがにこんなこと言えないよなぁ。
朔
…どうしても知りたいのか。でもそれは俺には言えないよ
るり
るり
だよね。朔、辛そう。
わかった、言わなくていいよ。大丈夫。
朔
…ほんと?そうか、わかった
朔はほっとした表情で、冷めてきたコーヒーをまた一口飲む。ボクも氷が溶けてきて味が薄くなったアイスカフェオレを飲む。
朔
じゃあ今日はどこに行く?他に行きたいところはある?
すっかりいつもの調子に戻った朔は、改めて聞いてくる。
ボクが考え込んでいると、「あ、お金は気にしなくていいからね」と付け足した。むぅ、バレていたか。
るり
るり
うーん…じゃあ、カフェにしようかなぁ。なんか他に思い付かないや
朔
オーケー、カフェね。
それなら遠出して、海の見えるカフェとかどう?
るり
るり
海かー!いいね、行きたい!
朔
よし、決まり。
朔は満足そうに笑う。
海の見えるカフェなんて、そんなものがあるんだ。海行ってみたいな。人間の体なら水だって平気だし、遊んでみたい。
朔
うーん、どうしようかなぁ。海の場所あんまり詳しくないんだよねー。
るり
るり
あ、そうなの?
朔
あ、完璧に調べてエスコートしますからね!
るり
るり
はいはい、任せた。
朔は熱心にスマホをスワイプして、検索をかけている。調べもの、ご苦労さまです。
海に行ったら何しよう?本格的に遊ぶとしたら水着っていうのを持っていかなきゃ…って、ボクの水着無いじゃん!どうするんだ!
るり
るり
朔ぅ!ボク水着無い!どうしよう?
朔
あ、確かに買ってなかった。
っていうか、水着着るぐらい遊ぶの!?
るり
るり
え、だめ?
朔
ダメじゃないです遊びましょう!!
食い気味…。
まあいいや。そうとなれば水着買わなきゃ。

結局、買い物してから海に行くことになった。そして、せっかく休日で早起きしたし遠出しよう!ということで、鎌倉に行くことに!
るり
るり
鎌倉って遠いの?
朔
うーんそうだなー…ここ東京都なんだけど、鎌倉は神奈川県にあるんだよね。だから電車で…どのくらいかなぁ。一時間半とか?いやもっとかかるかな。
るり
るり
うげ。まあいいや、休日だし。たまには遠出もいいものだよね。
朔
そうだね。よし、じゃあ行こうか!まずは買い物!
るり
るり
はーい。
リュックを背負って、玄関のドアを開ける。楽しみだねって話しながらマンションの廊下を歩いて、エレベーターに入る。
エレベーターも初めて乗ったとき怖かったなー。猫だったとき、多分朔の飼い猫になったときにも乗ってるけどボクはケージの中だったしそんなに覚えてない。
だから自分の足を床につけて乗ったときは、内臓がふわって浮いたような感覚になってビックリした。防犯カメラにばっちり写ってるだろうな…恥ずかしい。
マンションから出ると、人がいっぱいいる。休日ってこともあって、いつもよりも沢山いるなぁ。ちょっと疲れちゃう。
朔が言うには、ボクたちの住む東京は日本の中心みたいな場所で、人も多いしお店も多いんだって。ついでに家賃も高いって苦笑いしてた。

そういえば朔は大学生で、まだ働いてないはずなのにどうしてそんなにお金があるんだろう?
うーん…まあ考えても分からないからいいや。朔に聞いてもいいけど、今はいいかな。
朔
ウキウキしてあんまり考えてなかったけど、今9月なんだよねー…。
海で遊んで大丈夫かな?
るり
るり
えー、でもまだ暑いよ?今日だって最高28℃まで上がるらしいし
朔
え、そんなに上がるんだ!?天気予報見てなかったわ。じゃあまあ、大丈夫…かな。
ボクはすっごく海行きたいから、気温の話で言いくるめた。まあ暑いし、全然平気でしょ。
朔
あ、あそこ水着売ってそう!行こうか。
ボクはうなずいて朔についていく。

そういえば、服屋って季節によって商品の内容が違うらしいけど、水着ってシーズン過ぎてるよね。まだ置いてあるものなのかな?
ちょっと疑問に思ったけど、とりあえず服屋のあるビルに入っていく。
エレベーターで服屋があるフロアまで行って、綺麗な白い床を歩く。
朔
あ、この服屋もうすぐ閉店なんだ。在庫処分のためにいろんな服が置いてある。
ああ、だからか。だから水着も置いてあるんだね、なるほどなぁ。
朔
るり、どれがいい?結構いろんなのがあるけど。
るり
るり
うーん…何がいいのかなぁ。
水着のパンツとか、長袖のやつとかもある。道すがら朔に聞いたけど、男の人は上半身裸だったりするらしい。え、恥ずかしくないのかなって思ったけど、人それぞれだよね。
朔
サイズはー…うーんるりは華奢だからなぁ、結構大きいものが多いな。
るり
るり
まあ確かに。
ボクに合う服がなかなか無いのは、体が小さいかららしい。男物の服はどれも大きくて、いろんなサイズの服を置いてるところに行かないと手に入らないんだ。そう、例えばユニ◯ロとかね。
朔
あ!小さめのやつあったよ!どう?
るり
るり
あ、これなら着られそう。これにするよ。
それは紺色の上下セットのやつで、上は長袖で下は半ズボンだった。サイズもいつも着てる服と同じだし、着られそう。
朔はそれをレジに持っていって、会計をしてる。後ろからその様子を見ていたら、水着がちょっとお高めで申し訳なくなった。
朔
よし、行こっか!駅行かないとね~
るり
るり
うん。
楽しい気持ちに切り替えなくちゃ。今日は朔と出掛けられる日なんだからね。
切符を買ってもらって、改札を通る。駅はまだ緊張する。分からないことがいっぱいあるし、人もいるし。改札のシステムも最初は本当にびっくりしたよ。
駅のホームで待っていると、ガタンゴトンと音を立てて電車がホームに到着する。電車がホームにきたとき、顔に風を感じる。
足元を見ながら電車に乗り込んで、朔の隣の座席に腰を下ろす。まだまだ慣れてなくて、固い動きだ。今のボクは借りてきた猫だな。
朔
…これ、いる?
るり
るり
朔が手渡してきたのは音楽プレーヤーだ。ボクはうなずいて受け取り、イヤホンを耳につける。音楽を聞いて時間をつぶそう。
プレイリストを見ると、事前に入れておいてくれたのかボクの好きな曲がたくさん入っている。ボクは一番上の曲を選んで、目を閉じる。








………
朔
……て
朔
……きて
朔
るり、乗り換えだよ、降りるよー。起きて!
るり
るり
…うえっ?
朔
ほらほら、行くよ!
あれ、ボク寝てた?

まだ頭がはっきりしないまま朔に手を引かれ、電車を降りる。ぼんやりしてたせいで降りるときに転びそうになって、そのせいで目が覚めた。
るり
るり
ふわぁぁあ…ねむ…
朔
ぐっすり寝てたねぇ。
朔はニッコリ笑ってる。笑うなよぅ、いつの間にか寝ちゃってたんだから。
朔
さ、乗り換えだよ。違うホームに行かなくちゃ。
るり
るり
はぁい…
やっぱりまだ眠いな、まだ寝ていたい。

駅は広いし人も多いので、朔に手を繋いでもらってボクはついていく。朔はキョロキョロしながらお目当てのホームにたどり着く。さすがだな、人間歴が違う。
朔
あともうちょっとだからね、頑張れ!
るり
るり
んー…もっかい寝ていい?
朔
勿論でございますとも!!
朔がボクの頭をわしゃわしゃっと撫でる。ボクはもう人間なんだけどな。でも、猫に戻ったみたいで嫌いじゃない。
それから電車に乗って、また寝て、眠たかったからあんまり覚えてないけど乗り換えしたりして鎌倉についた。

駅から出ると日差しがすごい。めっちゃ暑い!こりゃもう海行くしかないでしょ!ボクはテンションが上がって完全に目が覚めた。ワクワクして、もう今すぐ海に行きたい!
るり
るり
朔、海早く行こうよ!!ねえねえ!
朔
はいはい落ち着いて?笑
もうちょっと美味しいもの買ったりしようよー!
るり
るり
ええー!!まあでも、ちょっとは付き合ってあげる!
朔
ん、ありがと。
美味しいものにはボクだって興味がある。
朔が言うには、鎌倉は食べ歩きが有名らしい。駅の横に通りがあって、その真っ直ぐな通りにはいろんなお店があるんだ。
そして、人がすごい!人の流れが出来てて、これははぐれちゃいそうだ。
ボクたちは手を繋いで散策してみることにした。
本当にいろんなお店がある!お土産屋さんもあるし、ご飯屋さんもある!美味しそうなおやつも売ってる!どれも食べてみたいなぁ…!
るり
るり
すごいね!目移りしちゃうな!
朔
本当だねー!どれ食べよっかなー?
時間は11時30分、まあまあお腹のすく時間だ。ボクも、あれもこれも食べてみたい。

結局ボクらは、生しらす丼と金箔ソフトクリームを食べた。悩んでるうちにお昼時になっちゃって、お昼ご飯を生しらす丼にしたんだ。初めて食べたけど、思ってたより美味しかった!また食べたいな。
で、お昼のあとに金箔ソフトクリーム食べた!これ初めて見て、気になりすぎて買ってもらった。バニラのソフトクリームに、キラキラの金箔が貼ってあるんだ!金箔もちゃんと食べられるんだって。ちょっとドキドキしながら食べたけど、暑い日にはソフトクリームに限るね。最高だった。
るり
るり
はー!美味しかったぁ!
朔
ふふ、良かった良かった!じゃあ腹ごなしに、歩いて海行こうか。
るり
るり
うん!
歩きながらいろんな話をして、いっぱい笑った。朔といると本当に楽しい。
猫の時から大好きだったけど、人間になって朔と同じものを食べて同じことが出来るようになって、もっと朔のことが好きになった。

この感情は何だろうな。前までの「好き」とはなんだか違う気がする。ちょっと変な感じだ。ドキドキするんだ。
これ何?って朔に聞いてみても良かったけど、でもなんだか朔には言うのが恥ずかしい。どうしてだろ?
なんか複雑な気持ちだけど、今はいいや!
海行けるんだし!楽しみ!
朔
あ!ねえるり、なんか磯の匂いがしない?
るり
るり
磯の匂いって何?でも、さっきまではしなかった匂いがする…!
朔
それが磯の匂いだよ!海の匂い!
るり
るり
へぇー!じゃあ海が近くなってきてるんだ!
ボクはワクワクしすぎて早足になった。朔はボクの歩きに合わせて早歩きしてくれる。
一分でも早く着きたい!その思いで、ボクたちは談笑しつつ歩いていった。




作者から。

こんにちは、ゆずきです!
すみませんが作者からを挟ませていただきます!
なんかBLになっちゃった…作者、BLには疎いものでして全然知らないんですけど、よくある男女の恋愛と同じように書きますね。みなさんの期待に沿えなかったら申し訳ありません!
あと、BL書くの初めてだし恋愛もの書くのもあまり経験がなく不慣れです!すみません!

失礼しました、引き続きお楽しみください!次回やっと海到着です。

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