朔の目が泳いでる。
行きたくないのかな?そんなにイヤ?
何、それ。ごまかしてるの?
明らかにおかしいじゃん。何を隠してるの。
ボクがそう言うと、朔は明らかに焦った顔をした。知らない言葉は朔から教えてもらっているけど、ペットショップという言葉は知らない。聞いたことない。
…ボクに教えたくないのかな。
朔、言葉に詰まってる。説明しづらいのか。ボクに見せたくないとか?いや、それならなんで見せたくないのか気になる。
また言葉を濁す。
なんでだよ。そんなにボクに知られたくない秘密があるのか?
話してくれそうだ。気になったとはいえ、ちょっとかわいそうな事をしたな。
バァン!!と大きな音がする。手のひらが痛い、つい机を叩いてしまった。
でも、確かめなきゃ。そんな場所が、ボクと朔が出会った場所だというの?本当に?
ボクは言葉が出なかった。そんな、そんな形で家族になるなんて。そんなのって…なんか違うだろ。
ボクは愛されてる。それは間違いないけど、ボクも朔に金で買われてここへ来たの?
ボクは…ボクはいくらしたんだろう。ボクのことを、朔は何円で買ったんだろう。
気になってそれを聞くと、朔は顔が真っ青になった。涙目でボクを見る。
そんな顔で見るなよ。ちょっと聞いてみただけじゃん。
朔の指先が震えている。朔はそれを隠すように手を握りしめる。
ボクは酷なことを言わせようとしているのは分かっていたけど、それでも尋ねた。
朔は黙る。やっぱり答えてくれないか。さすがにこんなこと言えないよなぁ。
朔はほっとした表情で、冷めてきたコーヒーをまた一口飲む。ボクも氷が溶けてきて味が薄くなったアイスカフェオレを飲む。
すっかりいつもの調子に戻った朔は、改めて聞いてくる。
ボクが考え込んでいると、「あ、お金は気にしなくていいからね」と付け足した。むぅ、バレていたか。
朔は満足そうに笑う。
海の見えるカフェなんて、そんなものがあるんだ。海行ってみたいな。人間の体なら水だって平気だし、遊んでみたい。
朔は熱心にスマホをスワイプして、検索をかけている。調べもの、ご苦労さまです。
海に行ったら何しよう?本格的に遊ぶとしたら水着っていうのを持っていかなきゃ…って、ボクの水着無いじゃん!どうするんだ!
食い気味…。
まあいいや。そうとなれば水着買わなきゃ。
結局、買い物してから海に行くことになった。そして、せっかく休日で早起きしたし遠出しよう!ということで、鎌倉に行くことに!
リュックを背負って、玄関のドアを開ける。楽しみだねって話しながらマンションの廊下を歩いて、エレベーターに入る。
エレベーターも初めて乗ったとき怖かったなー。猫だったとき、多分朔の飼い猫になったときにも乗ってるけどボクはケージの中だったしそんなに覚えてない。
だから自分の足を床につけて乗ったときは、内臓がふわって浮いたような感覚になってビックリした。防犯カメラにばっちり写ってるだろうな…恥ずかしい。
マンションから出ると、人がいっぱいいる。休日ってこともあって、いつもよりも沢山いるなぁ。ちょっと疲れちゃう。
朔が言うには、ボクたちの住む東京は日本の中心みたいな場所で、人も多いしお店も多いんだって。ついでに家賃も高いって苦笑いしてた。
そういえば朔は大学生で、まだ働いてないはずなのにどうしてそんなにお金があるんだろう?
うーん…まあ考えても分からないからいいや。朔に聞いてもいいけど、今はいいかな。
ボクはすっごく海行きたいから、気温の話で言いくるめた。まあ暑いし、全然平気でしょ。
ボクはうなずいて朔についていく。
そういえば、服屋って季節によって商品の内容が違うらしいけど、水着ってシーズン過ぎてるよね。まだ置いてあるものなのかな?
ちょっと疑問に思ったけど、とりあえず服屋のあるビルに入っていく。
エレベーターで服屋があるフロアまで行って、綺麗な白い床を歩く。
ああ、だからか。だから水着も置いてあるんだね、なるほどなぁ。
水着のパンツとか、長袖のやつとかもある。道すがら朔に聞いたけど、男の人は上半身裸だったりするらしい。え、恥ずかしくないのかなって思ったけど、人それぞれだよね。
ボクに合う服がなかなか無いのは、体が小さいかららしい。男物の服はどれも大きくて、いろんなサイズの服を置いてるところに行かないと手に入らないんだ。そう、例えばユニ◯ロとかね。
それは紺色の上下セットのやつで、上は長袖で下は半ズボンだった。サイズもいつも着てる服と同じだし、着られそう。
朔はそれをレジに持っていって、会計をしてる。後ろからその様子を見ていたら、水着がちょっとお高めで申し訳なくなった。
楽しい気持ちに切り替えなくちゃ。今日は朔と出掛けられる日なんだからね。
切符を買ってもらって、改札を通る。駅はまだ緊張する。分からないことがいっぱいあるし、人もいるし。改札のシステムも最初は本当にびっくりしたよ。
駅のホームで待っていると、ガタンゴトンと音を立てて電車がホームに到着する。電車がホームにきたとき、顔に風を感じる。
足元を見ながら電車に乗り込んで、朔の隣の座席に腰を下ろす。まだまだ慣れてなくて、固い動きだ。今のボクは借りてきた猫だな。
朔が手渡してきたのは音楽プレーヤーだ。ボクはうなずいて受け取り、イヤホンを耳につける。音楽を聞いて時間をつぶそう。
プレイリストを見ると、事前に入れておいてくれたのかボクの好きな曲がたくさん入っている。ボクは一番上の曲を選んで、目を閉じる。
………
あれ、ボク寝てた?
まだ頭がはっきりしないまま朔に手を引かれ、電車を降りる。ぼんやりしてたせいで降りるときに転びそうになって、そのせいで目が覚めた。
朔はニッコリ笑ってる。笑うなよぅ、いつの間にか寝ちゃってたんだから。
やっぱりまだ眠いな、まだ寝ていたい。
駅は広いし人も多いので、朔に手を繋いでもらってボクはついていく。朔はキョロキョロしながらお目当てのホームにたどり着く。さすがだな、人間歴が違う。
朔がボクの頭をわしゃわしゃっと撫でる。ボクはもう人間なんだけどな。でも、猫に戻ったみたいで嫌いじゃない。
それから電車に乗って、また寝て、眠たかったからあんまり覚えてないけど乗り換えしたりして鎌倉についた。
駅から出ると日差しがすごい。めっちゃ暑い!こりゃもう海行くしかないでしょ!ボクはテンションが上がって完全に目が覚めた。ワクワクして、もう今すぐ海に行きたい!
美味しいものにはボクだって興味がある。
朔が言うには、鎌倉は食べ歩きが有名らしい。駅の横に通りがあって、その真っ直ぐな通りにはいろんなお店があるんだ。
そして、人がすごい!人の流れが出来てて、これははぐれちゃいそうだ。
ボクたちは手を繋いで散策してみることにした。
本当にいろんなお店がある!お土産屋さんもあるし、ご飯屋さんもある!美味しそうなおやつも売ってる!どれも食べてみたいなぁ…!
時間は11時30分、まあまあお腹のすく時間だ。ボクも、あれもこれも食べてみたい。
結局ボクらは、生しらす丼と金箔ソフトクリームを食べた。悩んでるうちにお昼時になっちゃって、お昼ご飯を生しらす丼にしたんだ。初めて食べたけど、思ってたより美味しかった!また食べたいな。
で、お昼のあとに金箔ソフトクリーム食べた!これ初めて見て、気になりすぎて買ってもらった。バニラのソフトクリームに、キラキラの金箔が貼ってあるんだ!金箔もちゃんと食べられるんだって。ちょっとドキドキしながら食べたけど、暑い日にはソフトクリームに限るね。最高だった。
歩きながらいろんな話をして、いっぱい笑った。朔といると本当に楽しい。
猫の時から大好きだったけど、人間になって朔と同じものを食べて同じことが出来るようになって、もっと朔のことが好きになった。
この感情は何だろうな。前までの「好き」とはなんだか違う気がする。ちょっと変な感じだ。ドキドキするんだ。
これ何?って朔に聞いてみても良かったけど、でもなんだか朔には言うのが恥ずかしい。どうしてだろ?
なんか複雑な気持ちだけど、今はいいや!
海行けるんだし!楽しみ!
ボクはワクワクしすぎて早足になった。朔はボクの歩きに合わせて早歩きしてくれる。
一分でも早く着きたい!その思いで、ボクたちは談笑しつつ歩いていった。
作者から。
こんにちは、ゆずきです!
すみませんが作者からを挟ませていただきます!
なんかBLになっちゃった…作者、BLには疎いものでして全然知らないんですけど、よくある男女の恋愛と同じように書きますね。みなさんの期待に沿えなかったら申し訳ありません!
あと、BL書くの初めてだし恋愛もの書くのもあまり経験がなく不慣れです!すみません!
失礼しました、引き続きお楽しみください!次回やっと海到着です。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。