第5話

感動、そして…
25
2021/06/15 07:42
他愛ない話をたくさんしながら、海に向かって歩いていく。
さっきから磯の匂いがしてて、だんだん匂いが強くなってるからもえそろそろ着くはず!
朔
あ!!あれ、海じゃない!?
るり
るり
ホントだ!!青いの見えた!!朔、行こう!
やばーい!!海見えた!!テンションめっちゃ上がる!
つい興奮して走りだしちゃって、それを朔が追いかけてる。もともと猫で部屋にあるキャットタワーで遊びまくったせいか、ボクは結構足が早いらしい。もはや一人で爆走してる。
朔
うーわ、るり早っ!!追い付けないなこりゃ…!
朔を置いていってること忘れるくらいボクは海に夢中で、だんだん青い海がしっかり見えてきてさらにテンションが上がる!
走って走って、ついに砂浜に着いた!!
青い海が眼前に広がっていて、空にはトンビがたくさん飛んでる!
るり
るり
うわぁああ…!!すごい!!広い!!青い!!
ボクは早く海に行きたくって、走り出そうとしたけど不意に砂に足をとられて転んだ。
砂に顔がダイブして、小さな貝殻が顔に刺さりそうになる。
るり
るり
いった!!危ない、刺さるわこんなの!!

…ふふ、でも新鮮だな。面白いや!
砂浜で転んだことすら面白くなってきちゃって、スニーカーの中に大量に入っている砂を取るために靴を脱いで、ひっくり返して砂を出す。
そういえば朔のこと置いていっちゃったな、とやっと思い出して、焦れったいけど朔を待つ。
走ってくる朔に手を振って、ひたすら急かす。
るり
るり
おーい朔ー!!はやくはやくー!!
朔
こっちは、走るの早くないんだよー!!
苦笑いしながら朔が走ってきた。でも全然息乱れてないし、本人が言うほど運動が出来ないわけじゃないんだろうな。
って、そんなことは今はいいの!今は海!!
るり
るり
ほらほら、行こう!
朔
はいはい、行こうか笑
実は服の下に水着を着てきていて、服を脱げばもう海に行けちゃうのだ。
ボクはもう待ちきれなくて、着ていた薄手のパーカーとTシャツ、七分丈のズボンをさっさと脱いで、朔が持ってきてくれたクロックスを履いて走りだした。
るり
るり
うわーー!!!海ーー!!!
砂浜をなんとか転ばないように走って、波打ち際にたどり着く。
濡れた砂の上を歩き、波がやってくるのをワクワクしながら待つ。
るり
るり
あ、来た…!!

うわぁっ冷たい!!あははっ面白ーい!!
ボクはすっかり楽しくなって、波が足首にかかるのを笑いながら眺めている。波って結構冷たいんだね、でも太陽はめっちゃ照ってるし、全然良い!!
るり
るり
朔ー!朔もおいでよ!!楽しいよ!!
朔
はーい今行くー!
朔も着替えたようだ。朔は上半身は水着は来ていなくて、パーカーを羽織っている。黒の半ズボンの水着を着てて、サンダルを履いてる。サンダルはすぐ砂が足につくらしく、ちょっと歩きにくそうだった。
朔
風もないし暖かいし、絶好の海日和だねぇ!
どれどれ…?うわっ冷たいー!!気持ちいい!
朔もテンション上がってる!!

ボクらは波で遊んでいたんだけど、だんだん海の方に行きたくなって膝まで水に浸かった。
るり
るり
ひゃー冷たい!気持ちいい!海最高ー!
朔
あはは、そうだねぇ!本当に気持ちいい…ってうわぁ!!急に水かけるなよー!!しょっぱい!
るり
るり
ははは、面白い!
水を手でかけたら思いの外面白い反応をしてくれて、二人で水のかけ合いになった。二人とも全身が濡れて、口の中に海水が入ってしょっぱくなった。一つ一つが新鮮で面白くて、楽しかった。
楽しくなりすぎて、どんどん沖に向かって入っていく。水面の高さが腰になり、やがて胸のあたりまで水が来る。
るり
るり
うわぁ深いー!もっと行ったらもっと深いのかなぁ?海ってすげー!
朔
あっ、るり!これ以上は行かない方がいいよ、風も強くなってきたし…波も高くなってきたよ?
るり
るり
大丈夫だってー!ボク一人でもいいよ?ちょっと見てくるだけだし!
朔
危ないよ、ここら辺までにしておこう?
あっ、るり!!
でもボクは行ってみたいんだもん。朔の制止を無視して、もう少し沖の方まで進んでみる。水面は鎖骨のあたりまで高くなる。
朔がこちらに来ようとするが、流れのせいで上手く進めていない。
下手っぴだなあ、進むタイミングがあるんだよ?
朔
るり!!戻ってきて、本当に危ないよ!波が高いよ!
るり
るり
ええー、やだよ!もうちょっと!
ボクは駄々をこねる。今が楽しいときなのに、ここでやめたくない。
…まあ確かに、なんだか波が高くなって風も強くなってるけど。まあ大丈夫でしょ!


ボクは調子に乗って、もう少しだけ進んでみようとした、その時だった。

風は思ったより強くなっていて、沖の方では波の高さがどんどん高くなっていた。

現時点で首のあたりまで水に浸かっていたボクは、一際高い波に、のまれてしまった。
がぼっ、と口から酸素が逃げていく。代わりに海水が口の中に流れ込んできて、思わずむせるが水中では海水を出すことは不可能だ。さらに海水が口の中に入ってきて、一部が食道に、さらに一部が気管に入った。

あまりの苦しさに暴れてしまい、また酸素が逃げる。
朔
…っ!!!るり!!!
…朔??

なにか聞こえたような気がするが、気が動転していることに加え水中ではよく聞こえなかった。暴れていると、水面が急に泡立った。朔の両手が水の中に入ってきて、ボクのことを抱え上げてくれた。
るり
るり
(うわっ何…!?…あっ、朔!?)
普段は全然力を使わない朔が、腕に血管が浮き出るほどの力でボクを引っ張りあげてくれる。その手が朔のものだと気づくと、ボクは急に安心した。
朔
…はぁっ、るり…っ!!
朔はなんとかボクを引き上げて、砂浜の方へ進んでいってくれているようだ。
ボクは安心しきって、急に視界が狭くなった。

あれ…目の前が、暗い。…あれ…?
朔
…はあ、はあ…るり、大丈夫だからな…絶対助けて、やるからな…!
朔…?

それがうっすらと聞こえたあと、ボクの意識は消えた。
一方朔は、なんとかるりを抱き抱えて砂浜にたどり着くことができた。
肩で息をしながら、るりを砂浜に寝かせる。
朔
…!?るり!?おい、るり!!起きろ!!
るりの意識はない。
朔は血の気が引いて、頭がクラっとするのが分かった。なんとか持ちこたえて、るりの肩を掴んで揺らす。
朔
るり!!るりっっ!!目を覚ませ!!
るり
るり
……ぅ
朔
るり!!聞こえるか!?
るりが小さくうめいた。
どうやら意識は戻りそうだ。そう判断した朔は、なんとか自分を落ち着けようと大きく呼吸しながらるりを揺らす。
朔
るり!るり!!水を吐き出すんだ、咳をしろ!
どうしたらいいか分からないが、体を横にして背中を叩いてみる。
だがあまり変化はない。しかし、叩いたことでるりがうめいたので、なおも叩き続けてみる。
るり
るり
…うっ、けほっけほっ!!げほっ!!
すると意識が少し戻り、るりが大きく咳き込んだ。
朔は少し安心して、るりの名前を呼びながら背中を叩く。
朔
るり、るり!!聞こえるか!
るり
るり
けほっげほっ…はぁ、はぁ…
るりはうっすらと目を開ける。
まだ意識がはっきりしている訳ではないが、戻ってきたようだ。
朔
…!!るり、るり!!
るり
るり
はぁ、はぁ…こほっ…さ、く…
るりは朔の名前を呼ぶ。
朔はボロボロ涙をこぼしながら、るりを見つめる。
るりは水はそんなに飲んでおらず、吐き出すことができたため大事には至らなかったようだ。
意識がはっきりしてきて、起き上がるところまで回復した。
るり
るり
ふう…ごめん、心配かけた
朔
…っ本当だよ…!!死ななくてよかった…無事で…
朔はさらに激しく泣きながらるりを抱き締めた。るりは慰めるように背中を撫でる。
るり
るり
…ごめん、泣かないで。
朔
無理だよっ…泣くよこんなのぉ…
仕方ないな、と呟いて、るりは撫でるのをやめて朔を抱きしめる。あまり慣れていない、ぎこちない抱擁。朔はぎゅっとるりを抱きしめ返すのだった。


溺れたときのことはあんまり覚えてないんだ。朔が助けてくれて、めっちゃ泣いてたことは覚えてるんだけどね。

病院行こうってしつこく言われたけど、嫌だったから断った。面倒くさかったし、せっかくの休日がつぶれちゃうし。朔はボクの体の方が大事だって聞かなかったんだけど、ボクは無理やり断った。
…ちょっと意地悪なことしたんだ。また海の深いところまで行くふりをした。まあ朔はすごく焦って止めてきたから、そのままの流れで体を洗って着替えて、海は終わりにした。
それから、目当てだった海の見えるカフェに行った。海がメインになっちゃったけどね。
綺麗に海が見える最高のカフェを見つけておいてくれたから、そこに行ってゆっくりした。二人とも疲れきってたからね。
朔
どれにする?なんでも頼んでいいよ。
るり
るり
うーんじゃあオレンジジュースと、このパンケーキ二人で分けるのはどう?
朔
お、いいね!じゃあ俺は…アイスティーにしようかな。
朔が店員さんを呼んで注文をしてくれる。
その朔の横顔をついじっと見てしまう。
るり
るり
(やっぱかっこいいなぁ…すごいイケメンな顔)
朔はかなり顔がいい。本当にイケメンだ。
優しいし、性格もいい。

なんだろう、ドキドキする。急に朔の顔が見れなくなって、うつむいてしまう。
なんで?何なの、どうしてこんなに胸が痛いの?
朔
…?るり?どうしたの、体調悪い?
るり
るり
う、あ、いや。大丈夫、何でもないよ
全く大丈夫じゃない。
胸はドキドキしてるし、なぜか朔の顔が見れない。明らかにおかしいよ。
でもそのことを朔に言うのは…なんか恥ずかしい。
朔
無理しないでね。しんどかったら言うんだよ?
るり
るり
うん、分かってる。ありがとう
ボクはうつむいたまま、赤くなっている顔を見られないように返事をした。
そもそもなんで顔が赤くなってるんだ?それもおかしいじゃん。
モブ
お待たせしました~、オレンジジュースとアイスティー、パンケーキになります!ホイップクリームやメープルシロップをかけてお召し上がりください!
朔
あ、ありがとうございます。
るり、来たよ!すごい美味しそうだね!
るり
るり
うん
すっかり忘れてた。何かを食べる気分じゃないけど、ボクが提案したんだし食べなくちゃ。

なんとか顔を上げて、オレンジジュースを朔から手渡してもらう。その時に指に触っちゃって、またドキドキする。ボク、おかしいぞ。体に触ることは何度もあったのに、これだけでドキドキするなんて。
朔
パンケーキ、切り分けよっか。
ホイップクリームとメープルシロップ、どっちがいい?それとも、どっちも?
るり
るり
…メープルシロップかな。
朔
わかった、はいどうぞ。
半分に切り分けられたパンケーキをお皿にのせて、ボクの前に置いてくれる。メープルシロップが入った容器を手渡してきたので、今度はドキドキしないように受け取った。
…ちょっとドキドキしちゃったけど。
琥珀色のメープルシロップをかけて、ナイフとフォークを使って一口の大きさに切り分ける。ナイフを使うのもだいぶ慣れてきたかな。
フォークでメープルシロップがこぼれないように口に運ぶ。
るり
るり
…!!
うっっっま!!
何これ!!美味しすぎる!!

ボクは咀嚼してる間にもパンケーキを切り分けて、飲み込んだらすぐに口に入れる。

甘くてトロッとしたメープルシロップが、ふんわりしたパンケーキと相性バツグンでめっちゃ美味しい…!!
朔
ふふ…俺も食べようかな!
朔、なんで笑ってんだ。めっちゃ美味しいぞ食べて驚け!
朔をチラッと見てみると、ホイップクリームをつけたパンケーキを口に運び、そして目をキラキラさせていた。

だろ?美味しいだろ??ホイップクリームだとどれくらい美味しいのかなぁ?
朔
うわぁ、すごく美味しい…!!
るり、食べてみる?
るり
るり
食べるっ!
ボクは朔がくれた、三口ぐらいのホイップクリームのせパンケーキを口にいれる。
るり
るり
…むぅ!!
モグモグしてるせいで喋れないけど、これも美味しいぞ…!?

甘さ控えめのホイップクリームが、パンケーキの味を際立たせてる!!うま!!
朔
はは、喜んでもらえて良かった!
朔はボクを見て微笑みながらアイスティーを飲む。

うっかっこいい…。不意打ちだぞ、ずるいな。飲み物飲んでるだけでなんでそんなに絵になるんだよ…もう。
朔
このホイップクリーム、ちょっと甘ったるいような気もするけど美味しいね!
るり
るり
??甘さ控えめでしょ?
朔
あっそうだった…
何言ってんだい、こんなの全然甘くないね!まあいいけどさ。
そのあともいくつか注文して、ゆったり話しながら過ごしているとすっかり日が傾いた。
夕焼けが海の向こうに見えて、青かった海がオレンジ色に染まる。
綺麗だね、と景色に見入っている朔の横顔を、ボクは見つめている。


____この気持ちの名前は何だろう。




作者から(必ず読んでください)

読んでいただきありがとうございます、ゆずきです。
僕が言うまでもありませんが、注意をしておきます。

海で溺れた人を助けるときは、水を無理に吐かせようとせず人工呼吸を行ってください。人工呼吸を行っている途中に水を吐いた場合、逆流を防ぐためすぐに体を横にして、水を出してください。そのあと、人工呼吸を再開しましょう。
詳しいことはしっかり信頼できるサイトで調べてください。

あとちゃんと病院に行きましょうね!!るりみたいに面倒くさがってはダメですよ!!


大丈夫だとは思いますが、僕も詳しくないので…。落ち着いた対応をしてくださいね!

失礼しました、引き続きお楽しみください!

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