第22話

不運にならない同室の段
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2021/12/04 18:04
秋も通り越し冬。昼間はまだしも朝と夜は寒い。そして、今日も寒い夜しかも雪がちらついている。留三郎は夕河の部屋で過ごしていた。
食満留三郎
それってサンシュユの花か?
食満夕河
綺麗だから飾ってみたんだ。ちょっと便所に行ってくる
厠を済ませて戻る途中、夕河の目に明かりがついている保健室が見えた。前の渡り廊下に豆が散乱している。偶然出会った留三郎がやって来た。
食満夕河
静か過ぎやしない?
答えぬ夕河を留三郎は覗く、夕河は怪訝な顔で保健室を見ている。
 
食満夕河
ふ、伏木蔵!!!
留三郎も保健室を見る、その時。障子が僅かに開き、その中から、鼻水と涙でベタベタな顔になった伏木蔵が這いずり出てきて倒れた。
 
食満夕河
伏木蔵!だいじょ……んっ⁉︎
夕河は只ならぬ物を感じ取り、伏木蔵に駆け寄る。しかし嫌な臭いがしたから夕河はすぐに吸わないように覆面を着用し、伏木蔵に近寄る。そして伏木蔵を救い出していた。
食満夕河
伏木蔵!伏木蔵!大丈夫か?
鶴町伏木蔵
…うっ…ゆ、夕河?お、お願い…まだ中に……もっぱんが引火して…がくっ
      ミニコーナー
『もっぱんとは、沢山の刺激物が入った竹筒で、今で言う催涙弾です。』
夕河が恐る恐る中を覗くと、そこには同じく、鼻水と涙でグチャグチャになった伊作、数馬、左近、乱太郎が横たわっていた。
食満夕河
乱太郎!大丈夫⁉︎
猪名寺乱太郎
だ………大丈夫じゃない……まさか…豆が不運になるなんて……
乱太郎とまだマシな伏木蔵曰く、節分の為、不運を払おうと豆巻きをしたが、豆に足を取られた伏木蔵が薬棚を倒してしまい、さらにうどんを作って来た左近先輩が薬と豆に足を取られ、熱々のうどんをぶち撒けそれの一つが数馬先輩に被り、飛び上がっと同時に火鉢をひっくり返して炭が飛び、不運にももっぱんに引火してしまったそうだ。
食満夕河
な、何その不運のピタゴラスイッチ
善法寺伊作
ずまない…みんな…ごんなづもりじゃ……
食満夕河
伊作先輩!喋らないで!もっぱんがまだ充満しているんだから!
しばらくするとたまたま遭った伊助が火薬委員会と偶然出会った留三郎を連れて戻って来た。
食満留三郎
大丈夫か!いさ…うわっ
火薬委員会一同
うわぁっ……
あまりの惨状に思わず絶句した。それからはみんなで協力しながら何とか保健委員会を救出した。
その夜。
善法寺伊作
すまない。留三郎。また世話をかけてしまった
食満留三郎
気にするな。同室じゃないか。それに礼なら夕河に言えよな?あいつが違和感に気がつかなかったら危なかったんだぞ?
善法寺伊作
ありがとうね。夕河
食満夕河
い。いいえ!
布団で横になっている伊作を看病しながら留三郎は言って夕河は照れていた。
食満留三郎
しっかし。麻痺性のもっぱんとはえげつないもの作りやがる
善法寺伊作
いやぁ。今度の予算会議の為に使おうと思っていたんだけどね?
食満留三郎
バッキャロォオ!!!死人が出るわ!!
善法寺伊作
薬草がちら舞っていたからサンシュユの花を取りに行かなきゃならないよ
しかしもっぱんにやられている伊作がまともに動けるはずは無かった。
食満夕河
サンシュユの花ってわすが飾っている大量の花の事ですか?
善法寺伊作
夕河の部屋にあるそれだけどお願いサンシュユの花を保健委員会にくれないか?
部屋に戻って生け花を取らずに残りは全て保健委員会に寄付するように伊作に渡した。
食満夕河
これで足りますか?
善法寺伊作
ありがとう夕河ぁ!君は本当に良い人で留三郎のよく出来てるね
食満夕河
伊作先輩大袈裟です!
サンシュユの花を差し出したら伊作は男泣きし、夕河は苦笑いして留三郎は笑っていた。そしてしばらくしてからはもっぱんにやられていた乱太郎と伊作は夕河を連れて薬草取りに行った。
保健委員会一同
ようこそ!保健委員会へ!食満夕河!
伊作先輩と左近先輩と伏木蔵に快く迎えられ夕河の顔もにこやかになる。
食満夕河
改めまして食満夕河です。今日は保健委員会にお招きいただきありがとうございます!精一杯務める所存であります!
猪名寺乱太郎
そんな硬くならなくていいよ!
夕河の持ち前の丁寧な挨拶に乱太郎が突っ込む。伊作先輩がくすっと笑う。
善法寺伊作
留三郎そっくりだけど、性格は幾分違うね?
食満夕河
あのー、伊作先輩?
善法寺伊作
どうしたんだい?夕河
少し屈み尋ねる。夕河は周りを見る。
食満夕河
紫色の髪の……そうだ!三反田数馬先輩は?
保健委員会一同
あっ……
ガシッ!夕河を誰かが後ろから抱きしめた。
三反田数馬
覚えてくれてた…僕の事忘れてなかったぁぁ!
夕河が振り返ると、嬉し涙を流している三反田数馬先輩が夕河を見ていた。
 
三反田数馬
君はいい奴だね!夕河ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!うわぁぁん!
大泣きし出した三反田先輩を乱太郎、伏木蔵、左近先輩、伊作先輩が宥める。
猪名寺乱太郎
ご、ごめんなさい!
鶴町伏木蔵
誰か足りないと思っていたんです!
川西左近
すみません!
三反田数馬
申し訳ない!
保健委員会一同
で、誰だっけ?
三反田数馬
だぁぁぁ!(ドテ〜ン!)
三反田先輩がすっ転んだ。
三反田数馬
今、夕河が言ったばかりじゃないか!三年は組、三反田数馬!!!
そんなやりとりを夕河はジト目で見ていた。
猪名寺乱太郎
ゆ、夕河?
鶴町伏木蔵
そ、そんな目で見ないでよ?
食満夕河
自分たちの委員会のメンバーを忘れるなんて……どうなの?(ジト〜〜。)
三反田数馬
ほんとそうだよ…(ジト〜〜。)
三反田先輩も夕河同様ジト目に。
川西左近
か、数馬先輩…
善法寺伊作
よ、よしてくれ。数馬…夕河…
食満夕河
こんな委員会…
三反田数馬
あって…
食満夕河
いいんかい?
三反田数馬
いいんかい?
保健委員会一同
だぁぁぁ!(ドテ〜ン!)
寒すぎるダジャレに乱太郎達は盛大にすっ転んだ。
食満夕河
よろしくお願いします。三反田先輩
三反田数馬
よろしくね?夕河
そんなやりとりしているうち、夕河と数馬はがっしりと握手を交わした。留三郎は自主トレしに裏裏山に来ていたらきり丸としんべえを見かけて訪ねていた。
食満留三郎
きり丸、しんべえ
福富しんべえ
食満先輩!
摂津のきり丸
何か御用っすか?
食満留三郎
自主トレしに来ていたんだが夕河が見当たらないんだ。何処かに出かけたのかと思ってな。きり丸はアルバイトか?
福富しんべえ
夕河なら今日は保健委員会の手伝いに出かけましたけど乱太郎も来るはずだったけど保健委員会の事が入ってついでに夕河も行くみたいです
しんべえの言葉を聞いた途端に留三郎は真っ青になって冷静を失った。
食満留三郎
何ィィ⁉︎乱太郎と伊作の手伝いだとぉぉぉぉぉ⁉︎⁉︎
留三郎は大慌て乱太郎達の元へ行った。
摂津のきり丸
どうしたんだろう?食満先輩
福富しんべえ
さあ?
留三郎は自主トレする気はならなくてすぐに後を追った。
食満留三郎
嫌な予感がする。伊作!乱太郎!頼むから夕河を不運に巻き込まないでくれ!!
一方で保健委員会はそんな事など知らずに裏山の森の中を歩いていた。
猪名寺乱太郎
前から聞きたかったんだけど夕河。なんか荷物袋が無いけど忘れて来たの?  
食満夕河
懐の中にえっと…お弁当に鉤縄に打竹に包帯に薬壺にトイレットペーパーに懐に苦無2本、ほかにもほかにも……
三反田数馬
何で懐の中なんだよ!
鶴町伏木蔵
な、なんでそんなにも…それにペーパーは使わないんじゃ…
伏木蔵が首をかしげるが数馬先輩がツッコミ、左近先輩が首を横に振った。
川西左近
いや、備えあれば憂いなしって言うからな?それじゃ夕河!
食満夕河
なんですか?
川西左近
ペーパー少しくれないか?
食満夕河
はい
懐からペーパーを出し、少しもらい左近先輩は何処かへいった。
食満夕河
ほら、持ってきて良かった♫
猪名寺乱太郎
アララッ!
鶴町伏木蔵
アララッ!
乱太郎と伏木蔵がこけかけた。しばらくしてから左近先輩が戻って来て、再び歩き出した。薬草を集めながら裏山の山道に入るとき、数馬先輩が短く悲鳴をあげた。
三反田数馬
痛っ!
善法寺伊作
どうした!数馬!
三反田数馬
笹で手の甲を切っちゃいましたぁ…
善法寺伊作
すぐに治療…あぁしまった!包帯も薬も持って来て…
食満夕河
はい、伊作先輩。薬壺と包帯
夕河は懐から薬と包帯を取り出し差し出す。
 
三反田数馬
助かったよ!ありがとう、夕河!
善法寺伊作
用意がいいんだね?
そんなやりとりを後ろから追って来た留三郎が見ていた。
食満留三郎
流石だ、夕河…お前の備えの良さで…保健委員会の不運を帳消しに出来れば…
それからは夕河の用意した道具は要所要所で役に立った。高い木の上に生えている薬用の苔を採るのに鉤縄。洞窟に生えるキノコを探しに打竹。何時もなら何か不運に見舞われる保健委員会だが今回はすんなり薬草が集められ裏山のてっぺんまで来れた。
善法寺伊作
夕河!見てごらん!
食満夕河
うわぁぁ…!
伊作先輩に言われ、側に来ると、そこにはなんとも美しい眺めだった。地平線の彼方も見えるくらいの光景。
善法寺伊作
綺麗ですね〜。伊作先輩?
気がつくと伊作先輩は夕河の手を握っており、他のメンバーも側に寄って来ていた。
善法寺伊作
ありがとう。なんだか今日の保健委員会は幸運みたいだ!
猪名寺乱太郎
君のおかげだよ。おかげで薬草も沢山集まったよ
川西左近
ペーパーありがとな!助かったよ
三反田数馬
本当にありがとう!
鶴町伏木蔵
スリルはないけどエキサイティング〜
お礼を言われて夕河もにっこりと笑う。
食満夕河
どういたしまして
それからはお弁当を食べ、保健委員会のメンバーと遊び、薬草を摘んだ。
食満留三郎
保健委員会メンバーの不運を夕河の用意の良さで打ち消した…フッ…心配するまでもなかったな
食満夕河
伊作先輩。ちょっとだけ待って下さい!今すぐ連れて帰る人がいます
隠れて見ていた留三郎は帰ろうとした時だった。夕河の瞳色が氷みたいな青みが強いアースアイに変わり、助けに行ってそして伊作先輩が邪魔な石を投げた。
      ゴチ〜〜ン!!!
食満留三郎
痛え!
善法寺伊作
留三郎。どうして?それに夕河何故連れて来たんだい?
夕河が指差した方向を見たら崖崩れが遭ったので助けに行き、間に合っていた。その夜。留三郎は伊作にタンコブの治療をしてもらっていた。
食満留三郎
伊作、俺の弟を委員会の交流に誘ったんだってな?
善法寺伊作
うん。彼は君によく似ているよ
食満留三郎
兄弟だからな
善法寺伊作
今日は珍しくいい事尽くめでね。薬草も沢山集まったし。不運にも見舞われなかったし。でも留三郎を助けに行って夕河は凄すぎるよ!
食満留三郎
俺の弟は凄いんだ!
善法寺伊作
あっはははは!
伊作の笑い声に、留三郎は笑いを浮かべた。

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