ーー俺は人とは関わっちゃ行けない。ーー
その事を忘れていた訳じゃない。でも…人の温もりは思ったより暖かくて、人との関わりは思ったより楽しくて。
それに…!1年も何も無かったから、大丈夫なんだと勘違いしてたんだ。
それが夏目をどんな危険に合わすかも知らずに……
『プルルルルルル』
あれ?夏目だ。なんの用だろ…
あ!今日あいつの誕生日だからか!
ふっふっふ( ̄▽ ̄)ニヤリッ
去年忘れてて散々に言われたからな!今年は前もって準備してあるんだよ!
『ガシャンッ』
耳を疑った。
嘘だろ?
夏目…夏目…夏目!
『ダッ』
俺は走り出していた。
ごめん、夏目、ごめん
俺のせいで…ごめん
『ガラッ!』
病室のドアを開けるとそこには痛々しい姿の夏目がいた。
でも俺は、夏目が生きていて、しかも意識があることに喜んでいて、状況をよく分かっていなかった。状況を理解するヒントはいくらでもあったというのに。
一命は取り留めて意識まであるのに夏目の隣で泣きじゃくっている夏目の両親。
頭に巻いた器具。
ーーそれにーー
俺は嬉しくなって、たまらず夏目に抱きついた。
…すると夏目の白く細い腕が、遠慮がちに俺を引き離した。
そして俺を見つめると、戸惑った顔で言った。
ーーそれにーー
夏目の瞳は真っ黒で何も写していないようだった。
俺は訳が分からず、助けを求めるように夏目の両親を見た。
すると、夏目の両親は、とても辛そうな顔をして、重々しく口を開いた。
ーー覗いた夏目の瞳には、目の前の俺さえも写っていなかった。ーー
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。