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(これは1話の続きからです。)
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そういった直後、夏目の両親が泣き崩れた。
俺は戸惑いを隠せず、夏目の方に目を向けた。
夏目は、ベッドに顔を埋めて泣きじゃくっている夏目の両親をどうしたらいいのか分からず、困ったような顔をして見ている。
俺は問い詰めたい気持ちを必死に抑えて、少し震えた声で夏目に問いかけた。
困ったような、申し訳なさそうな顔で夏目が答える。
(こんな静かな夏目…初めて見る…本当にこの人は夏目だけど夏目じゃないんだ…)
俺は絶望した。
(でも…泣いたらダメだ…!夏目だって記憶が無くて戸惑ってるはずなのに、俺まで泣きだしたら夏目が困るに決まってる…!)
俺が必死に感情と葛藤している時に、夏目が遠慮がちに口を開いた。
どう接すればいいのか分からず、たどたどしい言葉使いになってしまった。
(そういえば…初めてだな。夏目に敬語なんか使うの…)
(俺と夏目の関係…?)
俺と夏目は付き合ってる訳じゃない。でも、俺も、多分…夏目も、互いのことが好きなんだと思う。
それでも友達以上の関係に一歩踏み出せなかったのは、俺の呪いのことがあるからだ。
(だから夏目も、お互いの気持ちに気づいてないふりしてくれてたんだよな…)
『ハッ…!』
そこまで考えて、俺は思い出した。
(そうだった。夏目が事故にあったのは俺のせいなんだ…!)
今まで、夏目の事故の事と、記憶喪失の事で頭がいっぱいで、忘れていた。
(俺のせいで夏目は記憶喪失になったのに…そんな奴が顔見せる資格なんてないだろ…)
唇を噛み締める。
(何やってんだ俺…大切な奴を傷つけて…これじゃあ翔真の時と同じじゃないか…)
(結局俺は何も変わってない…)
(大切な人を傷つける事しか出来ないんだ…)
目頭が熱くなってくる。
情けなくて…申し訳なくて…悲しくて…悔しくて…
(ほんと…情けないなー…俺…)
俺はうつむきながら、ぼやける視界の中で、唇を噛み締めていた。
不安そうなか細い声に、俺は我に返った。
不安そうな表情で、夏目が俺に問いかける。
俺は、無理やり笑顔を作って、わざとらしいくらい明るいトーンで夏目の問いかけに答えた。
俺は泣きそうになるのを必死でこらえながら少し微笑んで答えた。
疑う様な表情の夏目の言葉を遮り、俺は言った。
我ながら無理な設定だったと思う。
わざわざなんで誕生日の日に作戦を考えるのかも謎だし、そもそも接点があったんだから、ただのクラスメイトじゃないし、それに、もしこの話が本当だったとしても、あんなに一生懸命にはならない。
(あー!こんなめちゃくちゃな設定、信じる奴なんて…)
(ここにいたー!って!嘘だろ?どんだけ純粋なんだよ…!)
そんな俺の気持ちなどつゆ知らず、『私にはこんなにいいクラスメイトがいるんですね!なんだか安心しました…!』
なんて、にこやかに笑っている。
その、屈託のない笑顔に俺の胸は少し痛んだ。
そうだ。俺はいい人なんかじゃない。だから…だから…!
そう言って夏目は眩しいくらいの笑顔を俺に向けた。
大好きなはずの夏目の笑顔に今は胸が苦しくなった。
ーー俺は、独り言のようにボソッっと呟いた。ーー
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!