真面目で優しかった父は、母の死のショックからお酒に溺れ、毎日のように私たちを殴るようになった。
これが私たちを殴る合図。
桜雪と聖雪を守るためならなんだってやった。父の暴言暴力を受けるのは当たり前、
また鬼が来てもいいように剣術の練習だってしていたし、
働かなくなった父の代わりに稼ぐため身売りだってしていた時期もあった。
そんな生活が始まって暫く経ったある日の夜
父はお酒を買いに町へ行っていて、その日の内に帰ってこれるはずはない。
家を出たとき、父は確かに人間だった。
母の日輪刀を手に、鬼と化した父と戦う
今では数字のない鬼なんてすぐに片付けられるけど、あの時は2人を守って鬼を殺すなんてできるわけなくて
.
2人が死んでしまったのは私が弱いから
私が強かったら…誰も死ななかった
お母さんも、お父さんも、桜雪も、聖雪も
私が誰にでも敬語を使うのは父のせい。父に対して敬語を使わないといつもより殴られたから。
私から笑顔が消えたのも父のせい。
この言葉が忘れられないから。
それでも父を恨んではいない。私がお母さんを守れていたらこんなことにはなっていなかったはずだから。
私が悪い。全部。
***
あなたside
話し終わり、隣を見ると不死川さんが泣いていた
また歩きだそうとしたその時、腕が引っ張られて気づいたら抱き締められていた
涙が溢れてくる。
私は独りでも生きていけると思っていたけど、そうじゃなかったんだ。人肌が恋しくてたまらないのに、堪えていただけなんだ。
あの頃より確かに強くはなった。
けれどだからと言って独りで生きていけるようになったわけじゃないんだ。
何故この人は今私がいちばん欲しい言葉をかけてくれるのだろう。
おかげで涙が止まりませんよ。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。