第50話

四十四話
70
2020/10/06 02:52
 話すことは全て話したのか、オロチ君はこちらを見たままで黙ってしまう。だが、こちらとしては肝心な事が聞けていなかった。


「……それで?」

「それでって、何が?」

「なんでナイフを持ってるんだお前は!!」


 キョトンとした表情をしている彼を怒鳴りつける。高い天井の教会に、俺の声は良く響いた。

 オロチ君は『あちゃー』とでも言いたげな表情をすると、ひとつ咳払いをした。


「あのね、僕は皆に死んで欲しく無いんだ。だから、もしおにーさんが皆を殺すつもりなら、その……」

「俺を殺そうってか」

「……うん、ごめんね?」


 ペロッと舌を出し、茶目っ気たっぷりにウインクをしてみせる。そんなオロチ君に、俺は大きなため息をひとつ零し、


 思いっ切り引っぱたいたのであった。




「うう、まだ痛いよ……」

「泣くんじゃない。危うく勘違いで殺されかけてた身にもなれ」


 頬を抑えながら、わざとらしく弱った声を出すオロチ君を一喝する。彼とて男だ、あの程度の痛みならば何度もあるまい。

 いつまでもあの場所にいる訳にもいかず、俺達はとりあえず教会を後にしていた。

 二人で真っ暗な道を歩いていると、ふと疑問が浮かんできた。


「なぁ、なんで俺に協力したんだ?計画まで教えて……」

「お、良くぞ聞いてくれました〜!」


 さっきまでの泣きべそはどこへやら。オロチ君は待ってましたとばかりに笑う。俺の前に立ち、人差し指でこちらを指した。


「おにーさん、僕と手を組もうよ!二人で一緒に、皆を止めよう?」

「メリットが無いだろ」

「えっー!?警察なんだから、そう言うの止めようよぉ……」


 冗談に決まってるだろう。元よりそのつもりなのだから。だが、『手を組む』ことに関してはメリットらしいメリットが無い。

 別に今のままでも情報は手に入る。オロチ君に情報収集以外のことが出来るならば話は別だが。


「うー、わかったよ!じゃあ特別大特価!こんなのはどーお?」


 チャラついた学生のような口振りで提案してくる。一体どんなふざけた提案をするつもりなんだか。

 おおかた『可愛い子紹介してあげる〜』だとかそんな所だろう。俺は女性が苦手なので、そんな条件には釣られない────



「連続殺人犯さん、教えてあげる」




 ───釣られた。



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