話すことは全て話したのか、オロチ君はこちらを見たままで黙ってしまう。だが、こちらとしては肝心な事が聞けていなかった。
「……それで?」
「それでって、何が?」
「なんでナイフを持ってるんだお前は!!」
キョトンとした表情をしている彼を怒鳴りつける。高い天井の教会に、俺の声は良く響いた。
オロチ君は『あちゃー』とでも言いたげな表情をすると、ひとつ咳払いをした。
「あのね、僕は皆に死んで欲しく無いんだ。だから、もしおにーさんが皆を殺すつもりなら、その……」
「俺を殺そうってか」
「……うん、ごめんね?」
ペロッと舌を出し、茶目っ気たっぷりにウインクをしてみせる。そんなオロチ君に、俺は大きなため息をひとつ零し、
思いっ切り引っぱたいたのであった。
「うう、まだ痛いよ……」
「泣くんじゃない。危うく勘違いで殺されかけてた身にもなれ」
頬を抑えながら、わざとらしく弱った声を出すオロチ君を一喝する。彼とて男だ、あの程度の痛みならば何度もあるまい。
いつまでもあの場所にいる訳にもいかず、俺達はとりあえず教会を後にしていた。
二人で真っ暗な道を歩いていると、ふと疑問が浮かんできた。
「なぁ、なんで俺に協力したんだ?計画まで教えて……」
「お、良くぞ聞いてくれました〜!」
さっきまでの泣きべそはどこへやら。オロチ君は待ってましたとばかりに笑う。俺の前に立ち、人差し指でこちらを指した。
「おにーさん、僕と手を組もうよ!二人で一緒に、皆を止めよう?」
「メリットが無いだろ」
「えっー!?警察なんだから、そう言うの止めようよぉ……」
冗談に決まってるだろう。元よりそのつもりなのだから。だが、『手を組む』ことに関してはメリットらしいメリットが無い。
別に今のままでも情報は手に入る。オロチ君に情報収集以外のことが出来るならば話は別だが。
「うー、わかったよ!じゃあ特別大特価!こんなのはどーお?」
チャラついた学生のような口振りで提案してくる。一体どんなふざけた提案をするつもりなんだか。
おおかた『可愛い子紹介してあげる〜』だとかそんな所だろう。俺は女性が苦手なので、そんな条件には釣られない────
「連続殺人犯さん、教えてあげる」
───釣られた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。