「ターゲット、と申しますと?」
「連続殺人ですよ。あれ、言っていませんでしたか?」
聞いていない。
と言うか、何故彼が狙われるのか、皆目見当もつかないのだが。
「リナウドは忘れていますが、犯人はリナウドを恨んでましてね」
「え、いやいや!ここに来て恨みによる犯行をすると!?」
意表を突かれ、思わず叫ぶと、神父は言葉を探すように沈黙する。
「恨みつつ、望んでいるのです。犯人は過去の復元を望んでいるのですから」
「待って下さい、意味がわからない!」
しかし、俺の言葉がまるで届いていないかのように、神父は話し続ける。
告解でもするかのように、ただ淡々と言葉を並べていく。
「リナウドは、犯人のことを覚えていません。それなのに、彼は死を恐れない」
「それは知っています。リナウドは、あいつは死にたがりだってこと」
ダン!と壁を叩く音が聞こえた。木製の懺悔室が、ジンと揺れ、もう一度沈黙が訪れる。
「貴方は勘違いなさっている」
「……死にたがりでしょう。殺してくれと頼まれましたよ」
「彼は、いえ、”私たち”は断じて死にたがりでは無い」
私たちだって?
まさか、もしかしてこの男まで、俺に殺害を頼むつもりか?
「私たちは”殺されたがり”なのです。くれぐれも、言葉には気をつけて」
壁を隔てていると言うのに、尋常ではない緊張感を感じる。壁があって良かった、そう思う程に。
「良いですか?死にたがりは私たちでは無く、貴方であるべきなのです」
「待って下さい、俺は死ぬつもりなんか無い」
「今は、ね」
駄目だ、全く話が噛み合っていない。彼は本当に先程の人物か?人が変わったように、まるで建設的な話が出来ていない。
それどころか、壁の向こうから布摺れの音がする。まさか立ち上がったのか。
「もう話すことはありません。準備が出来たらご連絡致します」
「待って下さい、まだ話は────!」
ギィ、と錆び付いた音がする。慌てて懺悔室から飛び出したが、神父の姿はどこにも無い。
教会中をくまなく探したが、結局彼は見つからなかった。
しかし、気にしてはいられない。最大の収穫がある。それを元に動かなければ。
「……リナウドが、次の標的」
俺の足は、もう一度病院へと向かっていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。