第16話

十話
「…………え」


 やっと声が出た。

 目の前の彼は、愉しそうに笑っている。


「私の死因は、君に決めて貰いたいんだ」


 頬から手が離れる。

 熱と汗が、空気によって冷やされていく。

 冷めきった紅茶を一気に飲み干し、喉を潤した。

 彼はソファに身を預けると、両手を広げてケラケラと笑う。


「気が付かないか?君へのプロポーズだよ」

「は、はぁ!?」


 軽くむせながら、素っ頓狂な声を出してしまう。

 冗談だとはわかっているが、真意がわからない。

 警戒して睨みつけてみても、彼はいけすかない笑顔のままだ。


「君にとっても良い話だ。聞いておいて損は無い」

「……どういう意味だ」


 もはや敬語を使う価値も無い。

 敵意を隠すことなく対応する。


「人を殺したいだろ?そのチャンスをあげると言っている」

「そ、そんな馬鹿な話があるか!そもそも俺は人殺しなんて……」


 食ってかかると、リナウドは明らかに不機嫌になる。

 数回舌打ちをすると、ため息をついて


「ナンセンスだな、これだからチェリーは困る」

「なっ!それとこれとは話が別だろ、ほっとけ!」


 とんでもない侮辱をされた。

 女性が怖いんだから、仕方ないだろ。


「わかった、なら意味付けをしてあげよう」


 そう言うと、彼はメモにペンを走らせた。

 器用に破り、ひらひらと見せびらかしてくる。

 そこには、知らない住所が書かれていた。

 暗記する前に隠されてしまう。一体何の住所だろうか。


「私の話を聞け、そうしたらこれを渡そう」

「……誰の住所なんだ?」

「私と人喰いの共通の知人だ。もしかしたら、人喰いの居場所も知っているかも」


 つまり、有力な情報というわけだ。

 情報を渡す代わりに、話を聞く。

 悪くない取引だ。顎を出して続きを促す。

 あえて高圧的な態度をとったのは、相手に主導権を握らせたくなかったから。

 先ほどのようには、もうなるまい。


「OK、交渉成立だね」


 機嫌よく笑うと、嘲笑うような笑みで、語り始めた。