「ここって……」
オロチ君の案内でたどり着いたのは、『売却済み』と札のかかった屋敷。つい先日、フレッドさんと鉢合わせた場所だった。
「あれ、おにーさん来たことあった?」
「通りがかったことがあるだけだ。と言うか良いのか?勝手に入って……って、おい!」
俺の質問にも答えず、オロチ君とフレッドさんは屋敷に入って行ってしまう。しばらく躊躇ったが、ここまで来たら仕方がない。
後をついて行くと、二人の姿はもう無かった。どうやら屋敷に入ったらしい。
恐る恐るドアを開けると、屋敷の中は真っ暗で、視界を確保するのも難しい。
「おーい、どこにいるんだ!」
二人を探して辺りを見渡していると、突然視界が真っ白になった。
なんてことは無い。明かりがついたのである。急な光に目を細めながら、目を慣らそうと周囲を見る。
少し離れたところに、フレッドさんがいた。シャンデリアのスイッチに手をかけている。どうやら、彼が明かりをつけてくれたらしい。
「ありがとうございます、フレッドさん。オロチ君は?」
「オロチ?……あぁ、アイツは暗闇に紛れるのが上手いからなぁ。多分どっか隠れてるだろ」
かくれんぼでもしようってのか?なんて頭を悩ませていると、フレッドさんに軽く肩を叩かれた。
「ま、そのうち出てくるって。とりあえず、お掃除始めるぞ、な?」
「あ、は、はい!」
にこやかに微笑むフレッドさんは、廊下の奥へと歩いていく。何をしたものかわからず、ただついて行った。
すると、フレッドさんはおもむろに一番奥の部屋のドアを開ける。そこには、多少古いが掃除道具が並んでいた。
「はい、じゃあまずは棚とか綺麗にしてこ〜」
語尾を緩やかに伸ばす、だらりとした話し方。それが、いつもよりもずっとわざとらしく感じるのは何故だろう。
考えていても仕方がない。そもそも、あの人はとてつもなく掴みにくい人じゃないか。気分屋と言うか、呑気と言うか。
「えっと、それじゃあ俺はここの部屋……」
「うん、じゃあ俺ちゃんはこっちね」
その場その場で役割を決めながら、家具に積もった埃を払っていく。もう十年以上放置されているのでは無いか。そう思わせるほどの埃だった。
十分ほど経っただろうか。家具があらかた綺麗になったので、次の部屋に行こうとドアを開ける。
「フレッドさん、終わりました?」
先程、フレッドさんが入っていった部屋のドアを開く。しかし、そこに彼の姿は無い。
その代わりに、色鮮やかな花束と、小さな棺が置かれていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!