第61話

五十五話
80
2021/01/12 09:20
「ここって……」


 オロチ君の案内でたどり着いたのは、『売却済み』と札のかかった屋敷。つい先日、フレッドさんと鉢合わせた場所だった。


「あれ、おにーさん来たことあった?」

「通りがかったことがあるだけだ。と言うか良いのか?勝手に入って……って、おい!」


 俺の質問にも答えず、オロチ君とフレッドさんは屋敷に入って行ってしまう。しばらく躊躇ったが、ここまで来たら仕方がない。

 後をついて行くと、二人の姿はもう無かった。どうやら屋敷に入ったらしい。

 恐る恐るドアを開けると、屋敷の中は真っ暗で、視界を確保するのも難しい。


「おーい、どこにいるんだ!」


 二人を探して辺りを見渡していると、突然視界が真っ白になった。

 なんてことは無い。明かりがついたのである。急な光に目を細めながら、目を慣らそうと周囲を見る。

 少し離れたところに、フレッドさんがいた。シャンデリアのスイッチに手をかけている。どうやら、彼が明かりをつけてくれたらしい。


「ありがとうございます、フレッドさん。オロチ君は?」

「オロチ?……あぁ、アイツは暗闇に紛れるのが上手いからなぁ。多分どっか隠れてるだろ」


 かくれんぼでもしようってのか?なんて頭を悩ませていると、フレッドさんに軽く肩を叩かれた。


「ま、そのうち出てくるって。とりあえず、お掃除始めるぞ、な?」

「あ、は、はい!」


 にこやかに微笑むフレッドさんは、廊下の奥へと歩いていく。何をしたものかわからず、ただついて行った。

 すると、フレッドさんはおもむろに一番奥の部屋のドアを開ける。そこには、多少古いが掃除道具が並んでいた。


「はい、じゃあまずは棚とか綺麗にしてこ〜」


 語尾を緩やかに伸ばす、だらりとした話し方。それが、いつもよりもずっとわざとらしく感じるのは何故だろう。

 考えていても仕方がない。そもそも、あの人はとてつもなく掴みにくい人じゃないか。気分屋と言うか、呑気と言うか。


「えっと、それじゃあ俺はここの部屋……」

「うん、じゃあ俺ちゃんはこっちね」


 その場その場で役割を決めながら、家具に積もった埃を払っていく。もう十年以上放置されているのでは無いか。そう思わせるほどの埃だった。

 十分ほど経っただろうか。家具があらかた綺麗になったので、次の部屋に行こうとドアを開ける。


「フレッドさん、終わりました?」


 先程、フレッドさんが入っていった部屋のドアを開く。しかし、そこに彼の姿は無い。


 その代わりに、色鮮やかな花束と、小さな棺が置かれていた。

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