第19話

十三話

 応接室の扉が、乱暴に閉められる。

 ソファにもたれ、ゆっくりと深呼吸した。


「……ふぅ、何とか終わりましたね」


 警察と話したのは初めてだ。

 かなり年下だったが、意外と緊張した。


「はぁ、バレるのではと恐ろしかったですよ」


 私は誰もいない壁に語り掛ける。

 いや、壁ではなくクローゼットか。

 もしくは、そのクローゼット内にいる人物か。

 そう、クローゼット内の人物に話しかけているのである。


「え~、ちょっと遊んでたくせにぃ!」

「気のせいですよ、人喰い」


 クローゼットから顔を出した男。

 彼こそが、噂の人喰い殿だ。

 ヘラヘラと笑う彼に、不機嫌さを隠さずに呟く。

 思いのほか疲れていたのか、目が凝った。

 眼鏡を外し眉間を揉んでいると、人喰いがニヤニヤと目の前に座る。


「俺ちゃんには、楽しんでるように見えたけど?」

「貴方のせいで疲れているんです。何で来たんですか」

「お前が警察が来る~って言うからさ。嫌がらせしてやろうと思って!」


 彼はジャンティーレが訪れる五分前、ここに到着したのである。

 その時の私の焦り方、是非見て欲しかったくらいだ。

 クローゼットに押し込み、静かにしていろと言いつけておいたのである。


「貴方ねぇ、身勝手が過ぎますよ」

「お前だって、俺ちゃんが犯人みたいな言い方しやがって!」


 犯人だと言った覚えは無い。

 人喰いが薬品の成分表を取りに来たのは、本当なのだから。

 それを誰に渡したのか、そして誰が使ったのかは彼が自力で突き止めるべきだろう。

 なんにせよ、私は無実なので気が軽いが。


「どうすんだよ、俺ちゃんが誤認逮捕されたら!」

「貴方と警察を嘲笑って終わりですよ、人喰い」

「ちぇっ、その呼び方止めろよな。昔じゃないんだし」


 彼を人喰いと呼んでいたのは、もう十年以上前の出来事だ。

 信頼関係にある今は、ちゃんと本名で呼んでいる。


「まだ仕事あるんだろ?俺ちゃんはこっそり帰るから、さっさと戻れよ」

「えぇ、また会いましょう。フレッド」

「うん、出来ればあの世で」


 フレッドはヒラヒラと手を振ると、部屋を出て行った。

 眼鏡をかけ直し、ぐっと背伸びをする。


「さて、仕事でもしますか」


 脳裏には、薄汚い遺体の写真がこびりついていた。