相も変わらず軽薄そうな笑顔で、フレッドさんが立っていた。慌てて口に入っていたアイスコーヒーを飲み干し、ペコペコと頭を下げる。
「あ、いや、すみません!悪気はなかったって言うか、まさかフレッドさんがいるって知らなくて……」
「いいよ、どうせカガチが何も伝えなかったんだろ?」
「おじさんひっどーい!まぁ、伝えてなかったけどね」
笑顔のまま、フレッドさんはオロチ君の隣に座る。オロチ君はペロッと舌を出すと、子供っぽく肩をすくめて見せた。いや、報連相くらいキチンとして欲しいのだが。
そもそも何をするかすら知らされていないので、もはや報連相を守るとか言うレベルでは無いのかも知れない。
「あ、てかおにーさんも何か持ってきたんだね。店長に渡して来なよ!」
話をそらそうとしていることはわかりきっているのだが、無理やり背中を押されては抵抗も出来ない。抵抗できないと言うか、大声を出して止めるのが難しいだけだが。
カウンター越しに店長らしき人物に声をかけると、店長は俺が座っていた席をちらりと見た。少し複雑な、困ったような表情になる。
「……あの男とは違う材料だろうな?」
「あの男って……」
「お前と同じ席の、軽薄そうな中年だよ」
フレッドさんだ。間違いない。中年という言葉よりも、『軽薄そうな』と言う所でピンときた。スーパーの袋に入った鶏肉を渡した。
「あの人が何を持ってきたのか知らないんですけど、俺のは鶏肉です。安物ですが……」
そう答えると、店長は『それなら良い』とだけ言ってさっさと厨房へと行ってしまった。どうやらかなり不愛想なタイプの方らしい。
そういう人ほど料理が美味しいイメージがあるのだが、なんでなんだろうか。愛想が良くないのだから、せめて料理は上手くあれと言う願望なのかも知れないな、なんてくだらないことを考えながら席に戻る。
いつの間にか三杯目のアイスコーヒーがあり、それをフレッドさんがチビチビと飲んでいた。先ほど飲んでしまったのは、自動的に俺の物になったらしい。
「あ、おかえりおにーさん。ここの店長、ちょっと怖いでしょ」
「まぁ、可愛らしいとは言い難いよな……」
席につくと、早速とばかりにオロチ君が話しかけてくる。店内で店長の悪口なんて言えたもんじゃないので、適当に濁した。
「二人も何か持ってきたのか?」
「僕はねぇ、マカロニ。グラタンっぽいの作って貰うんだぁ」
「俺ちゃんはお肉。がっつり食べたくてさ」
当たり障りのない話題を装いつつ、フレッドさんが何を持ってきたのかを探る。先ほどの店長の様子が気になったためだ。
フレッドさんはオロチ君に続き答えてくれるが、なんだか怪しい答え方をしてくる。なんで「肉」ってぼかすんだよ。何肉かを教えてくれよ。
「……俺も鶏肉持ってきたんですよ。フレッドさんは何の肉を?」
「人肉」
当たり前のように返事をされた。思わず頬を引きつらせつつ、必死に冷静を装う。
「へー、人肉……人肉ですか。……冗談ですよね?」
「うん。大嘘だよ、俺ちゃんはねぇ、カエルのお肉」
ニヤリと笑うと、今度はゲテモノらしい名前を出した。
「……本当に?」
「本当に。店長に睨まれちゃった」
そりゃ睨むだろ。カエルを食べる文化があるのは知っていたが、ここで発揮するべきじゃないだろ、絶対に。
オロチ君が物凄い顔をしている。『嘘だろお前』って顔だ。気持ちはわかるので、心の中で深く頷いていると、ふわりといい香りが近づいてくるのがわかる。
振り返る前に、ウエイトレスが三つのパイを俺たちの前に並べた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。