第28話

二十二話
「見覚えのない字だな……。今は信じるしか無い、か」


 夜も深まるどころか、朝日が見え隠れするような時間。自宅で渡されたメモを凝視していた。

 結局あの後、何を聞いてもあいまいな返答しか帰って来ず、そうこうしているうちに上司に呼び出された。リナウドを解放しろ、と言うご命令を受け、これといった情報を聞き出しきれないまま解放した。

 ただでさえ大きな事件なのだ。有名人が関わっているとマスコミに気付かれたくないのだろう。世論のご機嫌取りも大変だな、と心の中で毒づいた。

 そんな俺の危うさに気が付いたのか、同僚にゆっくり休んだ方が良いと言われ、自宅に帰ってきていた。ベットに体を放り投げ、じっと天井を見つめる。

 訳の分からないことがありすぎて、ひどく混乱している。頭をすっきりとさせるためにも、シャワーを浴びたほうが良いのだろう。だが、予想外に疲労の溜まった体は、ベッドの上から動こうとはしなかた。

 目が覚めたら浴びよう。そう心に決めて、ゆっくりと目を閉じた。










「……見て下さい」


 耳元で低い声が聞こえる。それだというのに、吐息の感触は無かった。言われた通りに目を開くと、目の前には血だまりが広がっていた。


「綺麗でしょう?貴方の為に用意しました」


 その言葉を合図にするかのように、血だまりに男性が浮かび上がる。手足は力なく血に沈み、胴体は静かに横たわっている。白い毛先が血だまりに触れ、じわじわと赤く染まっていった。

 あぁ、確かに、これは────

 そう生唾を飲んだ瞬間、男性の体に異変が起こる。

 手足がちぎれ、ふわりと浮いた。俺の目の高さまで浮き上がると、糸がほつれるように崩れていく。その間に、首も斬り取られ、手足と同じように浮かび上がる。

 首はこちらを向き、真っすぐにこちらを見つめていた。完全に糸となった手足が、俺の手足に絡みつく。


「こうなる前に、ほら、貴方の手で────」


 の手足は俺を操るように引っ張り、宙に浮いた首へと誘っていく。

 いや、たとえそれが無かったとしても、俺は。




 これを、壊したい。




 そう自覚した瞬間、が嗤う。赤い瞳が、ゆっくりと細められた。

















「───っ!」


 がばっ、と起き上がる。外は既に明るく、子供たちの笑い声が聞こえてきていた。


「ゆ、夢、夢だよな」


 薄気味が悪くて、手のひらで腕や足をごしごしとこする。糸などは絡んでおらず、部屋に血だまりも、男性も無かった。

 ほっと胸をなでおろし、ベットから降りてキッチンに向かう。冷蔵庫から水を出し、寝ぼけた体を叩き起こした。


「……そうだ、夢だ。だから、気にしなくて良い」


 何を気にしなくて良いのかは、考えたくも無かった。