第25話

十九話
 警察署に着き、リナウドを取調室まで連れて行く。高名な医師ともあって、道中も同僚の視線を強く感じた。仕事の理解があるので、陰口などは無いのがありがたい。どころか、事件解決の第一歩として褒められたくらいだった。


「警察も大変ですね。夜遅くまでお仕事ですか」

「人命がかかっているからな」


 雑談を仕掛けてくるが、軽くあしらっておく。こいつのことだ、何かしらの目的を持って話しかけてきているに違いないのだから。

 取調室に通し、奥の席に座らせる。ハーフミラーの向こうには、恐らく同僚やらがいるのだろう。気を引き締め、小さく息を吐く。重たい空気が閉塞的な空間に立ち込める。


「聞きたいことは山ほどある。重要な所から行くぞ」

「私と犯人の関係ですか?」


 質問を先回りされると、非常に腹が立つことを知った。頷くことで罵倒を堪える。どこか楽しげな様子のリナウドは、より笑みを深めて話し出した。


「まず、犯人は人喰いではありません。彼は薬の成分表を犯人に渡しただけです。そうだ、薬品の成分の調査結果は出ましたか」

「……お前の持っていた薬品とは微妙に差があった。違う薬品と見て間違いないだろうってさ」


 しぶしぶ言うと、リナウドは小さく吹き出す。何がおかしい、と言わされないと言わないような、ありきたりな言葉が口をついて出てくる。恥ずかしさを誤魔化すように、咳ばらいをしてから、もう一度聞きなおした。


「笑う程面白かったか?初めから、お前を疑っちゃいない」

「いえ、貴方が不機嫌そうな顔で言うものですから。嫌われたのだな、と嬉しくなりまして」


 幸せそうに目を細める。この男には、何を言っても響くことは無いのだろうな、なんて諦めの混ざったため息をついた。話が脱線したのに気が付き、顎で続きを促した。

 また狂気じみた笑顔に戻ると、今度は犯人について語りだした。


「犯人犯人、と呼ぶのも野暮ですし、彼のニックネームだけお教えしますね」

「誰にでもニックネームがあるんだな。仲が良いのか?」

「私は友人だと思っていますよ。私はね」


 少し視線を落として、『彼は、私が嫌いなようですが』と寂しげに言う。口元の笑みが隠しきれていない。嫌われて当然だろう、と犯人に少し同情してしまった。


「彼の名前は蒐集家コレクター。もしくは敗残兵ルーザーとも呼びます。今回は蒐集家の方が似合っていますね」


 今回、とは事件のことを言っているんだろう。前回もあるような言い方なのが気になるが、それについて聞く時間は無い。次回があるという意味でないことを祈る。


「彼と私の関係ですよね。えぇ、話したいのですが……」

「……?なんだ、早く話せ」


 初めて言いよどんだので、ここぞとばかりに急かしてやる。リナウドは一瞬だけ視線を泳がせ、小さな深呼吸をした。意を決したように、顔を上げると、信じられないことを言った。




「覚えてないって言ったら、笑いますか?」




 笑えねぇよ。