第24話

十八話
 待つこと数時間、たっぷり夜も更けた頃。私服に着替えたリナウドが部屋に入って来た。黒いロングコートに、グレーのストール。意外とこじゃれた服装で、それがまた腹立たしい。


「お待たせしました。行きましょうか」


 これから警察で取り調べを受ける男の言い草だなんて、誰が思うだろう。ともすれば食事にでも行くような気軽さだった。にっこりと笑みをたたえたままなのは、強がりだと信じたい。


「……パトカーは外に停めたままだ。早く来い」

「言われなくても行きますよ。せかさないで下さい」


 席を立って横を通り抜けながら言うと、クスクスと笑いと共に返される。あくまでも自分が上だ、と主張されているようで、苛立ちが募った。

 一階に降りると、昼間とは違う病院の雰囲気に一瞬だけ躊躇する。がらんとした受付。誰もいないのか、聞こえるのはカツカツと言う二人分の靴音だけ。


 二人。


 自身の中に出てきた単語が、やけに恐怖を増幅させる。数歩後ろを歩いているのは、死体を見て「汚い」だなんだとほざいた狂人だ。

 もし、メスを隠し持っていたら?

 いや、そんな物が無くてもストールで首を絞めることだって。

 ネガティブな思考が頭を占め、思わずゴクリと喉を鳴らした。


「大丈夫ですよ」


 ふっ、と背後から声が聞こえる。聞こえるというか、上から降って来たようなイメージ。不思議に思って振り返ると、ある程度距離があったはずなのに、リナウドは真後ろに居た。

 薄ぼんやりとした暗がりが、白い髪を目立たせる。


「ちっ、近いんだよお前は!」


 鳥肌が立つのを感じながら距離を取る。ケラケラと楽しげな笑い声が、清潔感のある空間に、やけに下品に響いた。


「それほど怯えずともいいじゃないですか。貴方はいずれ、私を殺すのに」

「……まだ言うのか。そんなことはしない。絶対にだ」


 睨みつけながら体の向きを変え、病院の外へ出る。キーを使ってパトカーの後部座席を開き、リナウドに顎で指示をした。意図を察したのか、リナウドは抵抗することなくパトカーに乗る。

 エンジンをかけ、ハンドルを握った。その時、自分の手に汗がにじんでいることに気が付く。ルームミラーごしの視線を感じ、悟られぬようにズボンで汗を拭った。