「話、と言うよりは依頼、と言った方が良いかもしれません」
「依頼……人喰いさんなら、言われなくても探し出すさ」
「せっかちだな。これだからチェリーは」
「だから、それは関係ないだろ!!」
完全に遊ばれている。
抵抗もむなしく、あっさり主導権を握られた。
彼は眼鏡を押し上げると、話を続ける。
「先ほども申し上げたように、貴方にチャンスをあげるんですよ」
「人殺しのチャンスだったか?ハッ、馬鹿げている」
強気に笑い飛ばす。
さっきは混乱していたが、今は冷静だ。
あんな幻覚はもう見ない。興味も無い。
自分に言い聞かせながら、彼の言葉に囚われぬように気を引き締める。
「そもそも、チャンスって言ったって相手がいない」
「相手?チェリーからの脱却なら……」
「そうじゃない!そろそろしつこいぞ!」
そう叫んでから、また遊ばれたことに気が付く。
首を振って、頭を冷やす。
「冗談が過ぎましたね。殺す相手は誰か、と言うことでしょう?」
「殺したい相手がいるなら、アンタがやれ。ついでに手錠も自分でかけてさ」
「残念ながら、そうもいかないのですよ」
彼は本当に残念そうにため息をつく。
一呼吸置くと、真剣な眼差しで見つめてくる。
「これもさっき言いましたが、私は貴方に死因を決めて貰いたい」
「……それは、つまり」
ゾワ、と背中に寒気が走る。
その先を口にするのがためらわれ、言葉がそこで止まる。
そんな俺の言葉を継ぐように、彼は口を開いた。
ストレートに、嫌でもわかるように。
少し気恥しそうに、それこそ、純粋な愛の告白のように。
「私を、殺して頂きたい」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!