第23話

十七話
 駐車場に車を止め、急ぎ足で病院へ向かう。

 正直、あんな男死んだって構わない。

 それに、神父によればリナウドは殺されたがりだと言うじゃないか。

 だったら、放っておく手だってあるんだ。

 だが、それでは俺のプライドが許さない。

 警官として、一人の人間として、誰だって救って見せねば。

 意気込んで歩調を速めると、角で人とぶつかってしまった。

 男性はびっくりしたように目を瞬かせると、こんなことを口走った。


「あ、さっきの警官くんじゃん」

「え?」


 思わず聞き返すと、男は慌てたように口ごもると、さっと踵を返してしまう。

 引き留めるように声をかけると、ヘラヘラとした笑顔を浮かべた。


「俺ちゃん、ここの患者さんなの。お兄さん、さっき受付で警察手帳みせてたじゃん?それ見ちゃっただけ」

「な、なるほど。ご病気なんですね、お大事に」

「そう、その名も人喰い病、なんつってね」


 にやりと口角を上げると、男はすぐに人ごみに紛れて見えなくなった。

 今人喰いと聞くと、例の名無しのことしか思い浮かばないな。

 複雑な思いを抱きながらも、病院に入る。

 先ほどと同じ受付嬢に、もう一度警察手帳を見せる。リナウドとの面会を申し込もうとした、その時。



「おや、早い再開だ」



 いけすかない声が、背後から聞こえた。

 こちらから赴かなくて良いのは都合がいい。振り返り、眼鏡の奥の瞳を細めるリナウドにつめよる。


「神父様から聞いたぞ。次のターゲットはお前だとか」

「えぇ、それが何か?」

「何かって、お前……!」


 声を荒げかけて、リナウドに静止される。

 忘れかけていたが、ここは病院だ。周囲の迷惑になるのも、視線を集めるのも望ましくない。

 舌打ちまじりに声のボリュームを下げ、軽く睨みつけながら話を続ける。


「ともかく、しばらく見張らせてもらうぞ。これ以上事件を起こす訳にはいかない」

「構いませんが、良いのですか?」

「……何がだ」

「私が殺せないとあらば、犯人はターゲットを変えるだけだと思いますが」


 それもそうか、と納得しかけて止まる。

 自分が最終目標で無い、と確信したような口ぶり。

 犯人がまだ自分以外を殺す、そう知っている口ぶり。


「お前、やっぱり何か知ってるだろ」

「犯人の正体ですか?もちろん、知っていますよ」

「……署まで来い。続きはたっぷり聞いてやる」

「まだ仕事がありますので。人命優先ですよね?」


 相変わらず食えない性格だ。

 しかし、こちらもそれで引き下がるほど物分かりは良くない。


「なら、仕事が終わるまでここで待つ。仕事が終われば、断る理由は無いだろう」


 意趣返しと言うか、仕返しをしたつもりだったが、リナウドは意にも介さない。

 むしろ、待ってましたと言わんばかりの笑顔で答える。


「では、先ほどの部屋でお待ちくださいね」


 呼び止める暇もなく、靴音も高らかに立ち去って行った。

 言われた通りに応接室へ行くと、淹れられたばかりの紅茶が湯気を立てている。


「……何もかも、お前の手のひらの上だってか?」


 忌まわしさを掻き消すために、熱い紅茶を飲みほした。