第23話

十七話
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2020/04/30 12:41
 駐車場に車を止め、急ぎ足で病院へ向かう。

 正直、あんな男死んだって構わない。

 それに、神父によればリナウドは殺されたがりだと言うじゃないか。

 だったら、放っておく手だってあるんだ。

 だが、それでは俺のプライドが許さない。

 警官として、一人の人間として、誰だって救って見せねば。

 意気込んで歩調を速めると、角で人とぶつかってしまった。

 男性はびっくりしたように目を瞬かせると、こんなことを口走った。


「あ、さっきの警官くんじゃん」

「え?」


 思わず聞き返すと、男は慌てたように口ごもると、さっと踵を返してしまう。

 引き留めるように声をかけると、ヘラヘラとした笑顔を浮かべた。


「俺ちゃん、ここの患者さんなの。お兄さん、さっき受付で警察手帳みせてたじゃん?それ見ちゃっただけ」

「な、なるほど。ご病気なんですね、お大事に」

「そう、その名も人喰い病、なんつってね」


 にやりと口角を上げると、男はすぐに人ごみに紛れて見えなくなった。

 今人喰いと聞くと、例の名無しのことしか思い浮かばないな。

 複雑な思いを抱きながらも、病院に入る。

 先ほどと同じ受付嬢に、もう一度警察手帳を見せる。リナウドとの面会を申し込もうとした、その時。



「おや、早い再開だ」



 いけすかない声が、背後から聞こえた。

 こちらから赴かなくて良いのは都合がいい。振り返り、眼鏡の奥の瞳を細めるリナウドにつめよる。


「神父様から聞いたぞ。次のターゲットはお前だとか」

「えぇ、それが何か?」

「何かって、お前……!」


 声を荒げかけて、リナウドに静止される。

 忘れかけていたが、ここは病院だ。周囲の迷惑になるのも、視線を集めるのも望ましくない。

 舌打ちまじりに声のボリュームを下げ、軽く睨みつけながら話を続ける。


「ともかく、しばらく見張らせてもらうぞ。これ以上事件を起こす訳にはいかない」

「構いませんが、良いのですか?」

「……何がだ」

「私が殺せないとあらば、犯人はターゲットを変えるだけだと思いますが」


 それもそうか、と納得しかけて止まる。

 自分が最終目標で無い、と確信したような口ぶり。

 犯人がまだ自分以外を殺す、そう知っている口ぶり。


「お前、やっぱり何か知ってるだろ」

「犯人の正体ですか?もちろん、知っていますよ」

「……署まで来い。続きはたっぷり聞いてやる」

「まだ仕事がありますので。人命優先ですよね?」


 相変わらず食えない性格だ。

 しかし、こちらもそれで引き下がるほど物分かりは良くない。


「なら、仕事が終わるまでここで待つ。仕事が終われば、断る理由は無いだろう」


 意趣返しと言うか、仕返しをしたつもりだったが、リナウドは意にも介さない。

 むしろ、待ってましたと言わんばかりの笑顔で答える。


「では、先ほどの部屋でお待ちくださいね」


 呼び止める暇もなく、靴音も高らかに立ち去って行った。

 言われた通りに応接室へ行くと、淹れられたばかりの紅茶が湯気を立てている。


「……何もかも、お前の手のひらの上だってか?」


 忌まわしさを掻き消すために、熱い紅茶を飲みほした。

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