第14話

八話
「……やはり、私をお疑いですね」


 嫌味というよりは、諦めたような、仕方がないと認めたような口ぶりだった。

 まぁ、薬品持ってて、名前の無いご友人がいたら、誰だって怪しむ。

 渡した書類を読みながら、彼は記憶をたどり始めた。


「まず、一度目の事件の時はオペ中でしたね。二度目は書類仕事、同僚もいましたし、カメラにも映っているかと。三度目は……」


 と、そんな調子で全ての事件について教えてくれた。

 どれも裏どりの出来そうな内容で、怪しい所も無い。


「……しかし、酷いな」


 書類を見ながら、彼は顔をしかめる。

 何のことかと顔を上げると、彼の読んでいる書類に気が付いた。

 捜査資料だ。


「わ、わわわっ!」


 ひったくるように取り返す。

 間違って渡してしまったようだ。

 まぁ、マスコミで報じられた内容と全く同じだけど。

 機密の資料は持ち出さないようにしているし、見られて問題がある訳でも無い。

 どうやら、先ほどのは遺体の写真を見ての発言らしい。

 この際だし、もう少し話を聞いてみようか。


「そうです、人喰いさんはこんなことしそうですか?」

「……しないでしょうね。彼は偏食ですから」


 的はずれな返事が返って来た。

 偏食だから人を殺さない、とはどういうことだろう。


「彼は好物は全部たいらげるんですよ。こんな虫食いはしません」

「すみません、意味が良く……。人喰いさんの好物が人殺しだとでも?」


 何が面白いのか、ははは、と彼は笑う。

 少しだけ、恐怖を感じた。


「これだけ繰り返していれば、好物でもおかしくありませんね」

「い、いや、そんな言い方は……」

「ですが、何度も言うように、彼はこんな汚い殺し方はしません」


 理解した。

 さっき、何故恐怖を感じたのかを。

 この人は、人の死を何とも思っていない。

 どころか、遺体の写真を”汚い”とさえ言って見せる。

 異常だ。外科医だから、というわけでもないだろう。


「き、汚いなんてそんな……。酷いじゃありませんか」

「おや、貴方は賛成してくれると思っていましたが」


 俺の言葉に、本当に驚いたようにそう返してくる。

 賛成?バカを言わないで欲しい。

 貴方のような異常者と一緒にしないでくれ。

 そう言いかけてやめた。

 流石に口が悪すぎる。

 不快感を押しとどめていると、リナウドは何枚かの資料をまじまじと見つめる。

 一枚の写真を、細い指が指し示す。

 五件目の事件の写真だった。


「この女性だって、こんな死に方してはいけなかったのに」


 それは本心のようで、やはりそう言うまともな感性もあるのだ、と安堵する。

 ……のもつかの間、彼はこう付け加えた。





「この女性は、失血死より凍死が似合う。そう思いませんか?」