第15話

九話
「……何を、言って」

「わかるはずだ。君はわかっているはずなんですよ」


 彼の白く骨ばった指が、俺の頬を包む。

 意識しないと呼吸が出来ない。

 心臓から氷水でも流れているかのように、体に温度を感じない。



「わかるだろ、ジャンティーレ」



 眼鏡の奥で、赤い瞳がこちらを見つめている。

 彼の眼光は鎖のようで、四肢の動きを封じ込められる。

 指先は凍り付いたように動かない。

 足は震えるばかりで、立ち上がることも許されない。

 頬を包む魔の手だけが、熱を持って酷く熱い。



「もっと素敵な最期を、想像したんだろう?」



 違う、と声に出そうとするが、喉が渇いてろくに声が出せない。

 彼の低いバリトンだけが、脳を占める。



「君は何を想像した?私は凍死と言ったが、アレは嘘だ」



 頭の中に、被害者の顔がよぎる。

 明るく染められた髪、可愛らしい雰囲気のそばかす。



「本当はね、絞殺が良いと思ってる」



 甲高い声で泣き叫び、そのまま首を絞められる姿。

 苦しそうに呻くその様を、笑って見ている男がいる。

 その男は、ぐったりと意識の無い女性を、愛おしそうに撫でた。



「……想像、したかい?」



 彼の声で、その妄想は消えた。

 同時に、そんな妄想をしていた自分が恐ろしくなる。

 違う、違う、違う。

 俺はこんなの望んじゃいない。

 望んではいけない。

 人を殺しては、いけないんだから。


「なぁ、ジャンティーレ」


 馴れ馴れしい声がまとわりつく。

 気持ちを落ち着かせる間すら、彼は与えてくれない。

 心臓の音は大きくなるばかりで、汗が頬をつたう。

 彼は、とどめとばかりにこう言った。





「私には、どんな死因が似合うかな」