第15話

九話
152
2020/04/29 09:27
「……何を、言って」

「わかるはずだ。君はわかっているはずなんですよ」


 彼の白く骨ばった指が、俺の頬を包む。

 意識しないと呼吸が出来ない。

 心臓から氷水でも流れているかのように、体に温度を感じない。



「わかるだろ、ジャンティーレ」



 眼鏡の奥で、赤い瞳がこちらを見つめている。

 彼の眼光は鎖のようで、四肢の動きを封じ込められる。

 指先は凍り付いたように動かない。

 足は震えるばかりで、立ち上がることも許されない。

 頬を包む魔の手だけが、熱を持って酷く熱い。



「もっと素敵な最期を、想像したんだろう?」



 違う、と声に出そうとするが、喉が渇いてろくに声が出せない。

 彼の低いバリトンだけが、脳を占める。



「君は何を想像した?私は凍死と言ったが、アレは嘘だ」



 頭の中に、被害者の顔がよぎる。

 明るく染められた髪、可愛らしい雰囲気のそばかす。



「本当はね、絞殺が良いと思ってる」



 甲高い声で泣き叫び、そのまま首を絞められる姿。

 苦しそうに呻くその様を、笑って見ている男がいる。

 その男は、ぐったりと意識の無い女性を、愛おしそうに撫でた。



「……想像、したかい?」



 彼の声で、その妄想は消えた。

 同時に、そんな妄想をしていた自分が恐ろしくなる。

 違う、違う、違う。

 俺はこんなの望んじゃいない。

 望んではいけない。

 人を殺しては、いけないんだから。


「なぁ、ジャンティーレ」


 馴れ馴れしい声がまとわりつく。

 気持ちを落ち着かせる間すら、彼は与えてくれない。

 心臓の音は大きくなるばかりで、汗が頬をつたう。

 彼は、とどめとばかりにこう言った。





「私には、どんな死因が似合うかな」




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