第27話

二十一話
「ルール……?」


 疑問を口にすると、リナウドはゆったりとした動作で頷く。先ほどの恥ずかしげな様子はどこへやら。こちらをからかうような視線に戻っている。


「なんだ、殺人ゲームでもしているのか?」


 これは半ば冗談であり、半ば本気でもあった。こいつはやりかねない。心のどこかで、リナウドに対する偏見が膨らんでいくのを感じる。警察官として間違っていると理解しながらも、どうしても警戒は解けなかった。

 質問に対するリナウドの答えは、せせら笑いだった。


『ナンセンス』


 そう言いたげな視線に、心の中で軽い舌打ちをする。ならば何のルールだ、と聞こうとしたところで、遮るように話しだした。わざとやっているのだろう、良い性格だ。


「私たちにとって、殺人はゲームでも何でもありませんよ」


 『私たち』と言う言葉に引っかかる。しかし、それを問い詰める前に自らすらすらと話し出した。


「私にとって、殺人は失敗です。なにせ医師ですから」


 半分嘘で、半分真実。失敗だとは感じるが、医師ゆえで無く他の理由があるのだろう。さらに、それをこちらに悟らせるように話している。


「人喰いにとって、殺人は食事です。名前からして、ご理解いただけるでしょうが」

「……カニバリスト、と言うことか?」


 リナウドは答えない。それが答えだった。

 ぞくりと背中を冷たい感覚が通り抜ける。喉を空気の塊がせり上がってくるのを感じた。それを飲み込み、リナウドの言葉を待つ。こちらから続きを促せなかったのは、続いてくれるな、と思ってしまったからだろうか。


「蒐集家は……あれは特殊ですね。私たちの中で、唯一の『死にたがり』です」


 あの神父は自分たちを『殺されたがり』と称していたが、犯人は違うらしい。明確なイメージはつかめないが、狂人であることに違いはなさそうだった。


「あの神父は?後援者は、人を殺すのか?」


 興味本位だった。ふとした質問だったが、それはリナウドを喜ばせたようで。パッと表情を明るくすると、弾んだ声色で答える。


「あの方は人嫌いですから。殺すなら、人ならざる物だけでしょう」


 つまり、動物や昆虫と言うことだろうか?リナウドのウキウキとした様子に気味悪さを感じ、この話題を終えることにする。


「もういい。なら、何なら教えられるんだ?ルールとやらに抵触しない程度で良いから」


 そう言うと、待ってましたとばかりに一枚のメモ用紙を取り出す。どこか可愛らしい文字で、こう綴られていた。


『明日の夜七時、『マッズ・フラワー』の前で待ってるね。おにーさん♡』


 確実にリナウドの文字ではない。驚いて何も言えないでいると、リナウドがふわりと笑った。


「後援者から聞いているでしょう?情報屋の準備が整いましたよ」


 ……まさか、女の人じゃないよな。

 なんて、情けなくて聞けなかった。