第13話

七話
「決まった名前が、無い……?」

「信じて頂けないと思います。しかし、事実なのです」


 彼は、苦しそうに眉間にしわを寄せる。

 嘘ならばどこで矛盾があるはず、と詳しく話を聞くことにした。


「私は彼を人喰いマンイーター、と呼びます。おかしな名前ですが、彼はそう名乗ったのです」

「マ、マンイーター?それを本名だと信じたのですか?」

「まさか!たとえ偽名だとしても、関わる必要があった、それだけです」


 慌てて首を振る。

 『関わる必要があった』と言うが、どんな関係だったのだろう。

 旧友と言うくらいだから、長い付き合いのはずだ。


「まだ二十代の頃に出会いました。ある共通の知人の紹介で出会ったのです」

「その時に、彼は人喰いと名乗ったのですか?」

「はい、でもあの方……共通の知人からは、”キブス”と呼ばれていました」


 聞きなれない単語だ。

 何かの暗号かと頭を悩ませると、彼は慌てたように


「ラテン語で、”食事”と言う意味です。彼は……とんでもない偏食でしたので」

「な、なるほど……。それがどうして人喰いなんて名前に?」


 何気なく聞くと、彼は少し笑う。

 おかしなことを聞いてしまったろうか。


「あ、いえ。彼の職業と言うか、収入源が関わっているんです」

「収入源、とは……?」

「ジゴロなんですよ、彼」

「……なるほど」


 人を食い物にするから、人喰い。

 まんまなネーミングだが、嫌いでは無いな。

 いつの間にか、話がかなりそれていた。

 話を戻すため咳ばらいをし、重要なことを聞いていく。


「それで、その人喰いさんの場所などはわかりませんか?」

「さっぱりです。ホテルを転々とするような奴ですから……」


 それを聞いて、ふと思い至る。

 犯行場所の中には、ホテルもいくつかあった。

 共通の客がいなかったため操作が難航したが、名前が無いのなら話は別だ。

 名前は変えられても、筆跡は変えられない。

 サインなど残っているはずだから、帰ったら照合してみよう。


「では、良く行きそうな場所とか……」

「わかりません。どこにでも現れる男なんです。今だって、貴方の背後に居たりして……」


 思わず振り返ってしまった。

 しかしそこには、クローゼットや観葉植物があるばかり。

 冗談もいう人なのか、とリナウドさんへの印象を更新した。


「すみません、まさかそこまで驚くとは……」

「いえ、こちらこそすみません」


 恥ずかしくなって、もう一度咳ばらいをする。

 決して照れ隠しではないが、質問をすることにした。


「えー、では犯行時刻の貴方の行動について教えてください」


 如何せん犯行時刻が多いので、まとめた書類を渡した。