第12話

六話
「手術が成功したと聞きました。おめでとうございます」


 まずは雑談から。

 犯人にせよ、そうでないにしろ、話しやすい空気を作らないといけない。

 出された紅茶を味わいながら、話を進めて行く。


「雑誌の特集も見ましたよ、かっこよかったなぁ」

「いや、お恥ずかしい限りで……」


 本当に恥ずかしそうにはにかむ。

 こうして話す分には、普通の男性だ。

 時折知性を感じるものの、厭味ったらしさは全く無い。

 むしろ好印象と言うか、ずっと話していたくなる人物だ。

 だが、これも仕事。

 どれだけ好印象でも、疑ってかからねばいけない。


「……あの、刑事さん」

「はい、なんでしょうか」


 切り出したのは相手側だった。

 そちらから話してくれるのは、大変やりやすくて良い。


「私は疑われているのでしょうか、心当たりが無いのですが……」

「いえ、そういうわけではありませんよ。ちょっとお聞きしたいことがありまして」


 そう言って、資料を取り出す。

 犯行に使用された薬品の資料だ。

 この薬品は、現在流通しておらず、なおかつ所有者は彼のみである。

 その資料を読むと、彼は目を丸くする。


「まさか、そんな……」

「お心当たりが?」


 彼はうなだれると、ゆっくりと頷く。

 自供でもしてくれるのかと思ったが、どうやら違うようだ。


「……数週間前、旧友が訪ねて来ました。その時、この薬品の成分表を見せたんです」

「その話を、我々が信じる根拠は?」


 リナウドさんは一度部屋から出て、すぐに戻ってくる。

 手には薬の瓶があった。


「これが私の持っている薬品です。調べてみて下さい。きっと成分にズレがあるはずだ」

「……わかりました。お借りします」


 まぁ、高名な外科医がこんなわかりやすくボロを出すとも思えない。

 こうなってくると、その旧友が怪しいな。


「その旧友の方の名前は?」

「……言えません」

「なぜ?かばうと貴方まで疑いをかけられてしまう」


 リナウドさんは押し黙り、しばらく俯いていた。

 葛藤している様を見ていると、何故か違和感を覚える。

 何かを待っているように見えたのだ。

 しかし、誰かが訪れる訳でもなく、彼は顔を上げる。


「言えないのです。彼には、決まった名前がありませんから」


 にわかには信じ難いその話を、彼は真面目に語りだす。