第30話

二十四話
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2020/07/24 03:00
 結論から言うと、女の子では無かった。華奢な体つき且つ童顔だったので間違えたが、彼はれっきとした男性だった。


「僕はさ、”海外”の人がムキムキ過ぎるだけだと思うんだよね」


 口を尖らせ、茶目っ気たっぷりに言ってみせる。その口調からもわかる通り、彼は日本人だったのだ。

 日本人は細身とは聞いていたが、まさかこれ程とは。驚きを隠せずにいると、胸中を見透かされたのか、


「僕は日本人の中でもスマートなんだ。可愛いでしょ?」


 と、ウインクをしてみせた。髪を肩の辺まで伸ばしていなければ、もう少し男らしく見えるとは思う。つまり、確信犯という訳だ。


「それは言わないで!僕は可愛い。それで十分だから!」

「わかったわかった。俺はジャンティーレ・マリナンジェーリ。君は?」

「僕はね、蟒蛇オロチ。よろしく!」


 ウワバミオロチ、なるほど日本人らしい名前だと納得する。ふと、そこで彼以外の人間が見当たらないことに思い至る。


「他には?君一人?」

「んーん、そこにいるよ」


 オロチの細い指が、すっと俺の背後を指す。いや、指していたのは店内だ。規制線が貼られ、立ち入り禁止となった店内。

 そこに、一人の男がいた。レジに座り、薔薇の花を弄んでいる。目元に刻まれた大きな傷跡が、花々と恐ろしい程似つかわしくなかった。


「やぁ、刑事さん」


 ハスキーな声で、微笑みかけてきた。その声には威厳があり、会釈一つ出来ない。男は、ゆっくりと立ち上がり、こちらに近付いてきた。


「俺はドゥドゥー・ミルラン。力仕事なら任せてくれ」


 差し出された手を、おっかなびっくり握り返す。硬い皮膚が、彼の人生を物語っているようだった。

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