結論から言うと、女の子では無かった。華奢な体つき且つ童顔だったので間違えたが、彼はれっきとした男性だった。
「僕はさ、”海外”の人がムキムキ過ぎるだけだと思うんだよね」
口を尖らせ、茶目っ気たっぷりに言ってみせる。その口調からもわかる通り、彼は日本人だったのだ。
日本人は細身とは聞いていたが、まさかこれ程とは。驚きを隠せずにいると、胸中を見透かされたのか、
「僕は日本人の中でもスマートなんだ。可愛いでしょ?」
と、ウインクをしてみせた。髪を肩の辺まで伸ばしていなければ、もう少し男らしく見えるとは思う。つまり、確信犯という訳だ。
「それは言わないで!僕は可愛い。それで十分だから!」
「わかったわかった。俺はジャンティーレ・マリナンジェーリ。君は?」
「僕はね、蟒蛇オロチ。よろしく!」
ウワバミオロチ、なるほど日本人らしい名前だと納得する。ふと、そこで彼以外の人間が見当たらないことに思い至る。
「他には?君一人?」
「んーん、そこにいるよ」
オロチの細い指が、すっと俺の背後を指す。いや、指していたのは店内だ。規制線が貼られ、立ち入り禁止となった店内。
そこに、一人の男がいた。レジに座り、薔薇の花を弄んでいる。目元に刻まれた大きな傷跡が、花々と恐ろしい程似つかわしくなかった。
「やぁ、刑事さん」
ハスキーな声で、微笑みかけてきた。その声には威厳があり、会釈一つ出来ない。男は、ゆっくりと立ち上がり、こちらに近付いてきた。
「俺はドゥドゥー・ミルラン。力仕事なら任せてくれ」
差し出された手を、おっかなびっくり握り返す。硬い皮膚が、彼の人生を物語っているようだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。