第13話

最低なこと。
10
2018/09/19 10:29
委員会が終わり教室に戻ると誰もいなくなっていた。菊池と二人きりでなんだか気まずかった。
「おつかれさんー じゃあまた明日な」
と《僕》は言い教室を出ようとした。
すると後ろから菊池がやってきた。
「こ、これ。」
手には手紙とお菓子があった。バレンタインは一昨日に終わっている。どうしたのだろうか。
「え⁉ 誰から?」
突然のことに戸惑った。誰から?と聞いたのは心の中に“有馬”という存在がまだあって少しでも希望を持ちたかったからだ。
「あたし。じゃあ」
そう言って菊池は外に出ていった。
教室に残された《僕》は手紙とお菓子を持ち立ちすくんでいた。
(どういうこと?菊池から?)

家に帰って手紙の内容を見た。
『突然すみません。』
と他人行儀な形式で始まってこう続いた
『好きです。あなたは穂乃果のことがまだ好きかもしれないけど、私はあなたが好きです。』
と。意味がますますわからなくなった。好きなのは当然知っているはずだし、告白の返事をもらうときも来ていたからどう考えてもおかしいと思った。頭の中はハテナでいっぱいだった。風呂に入ったときもどうしようと考えていた。その時《僕》はいけないことを思いついた。

数日後。《僕》は菊池を呼び出して告白の返事をした。
「よろしくお願いします」
とばかり言いその場を離れた。

それからはクラスで菊池とよく喋るようになった。菊池も有馬や中野と一緒で吹奏楽部に所属していた。吹奏楽部は女しかいないようなところ。噂はまたたく間に広がった。広まってほしくないとは思ってない。むしろ広まってくれたほうがありがたかった。
ある日の放課後。有馬が教室にやってきた。
「ねえねえ 七海と付き合ってるの?」
ちょっと下を向いて言ってきた。
「ああ」
それ以上《僕》は何も言わずに教室を出た。
《僕》は最低だ。
『もし俺が菊池と付き合えば有馬は少しは俺に興味を持ってくれる』
あの日の風呂で思いついてしまった。最低なことだ。《僕》は菊池を利用したのだ。このことは菊池は知らない。知られしまっては困る。大切な振り向き用材がなくなるからだ。
思い通りに有馬はよく《僕》に話しかけてくれるようになった。
「ねえ土屋! デート行ったの?」
「ねえ土屋! 家行った?」
などなど聞いてきた。有馬に少しでも後悔させたいと思っていたがあまり効果はなかったよぅた。

そして3月。ホワイトデーになった。菊池にお返しをしようと部活の仲間を引き連れて放課後の帰り道に菊池の家に行った。
そうして《僕》は知ってしまうのだった。
植野がある一軒の家をさしてこういった。
「ここ有馬んちだよ」
初めて“スキナヒト”の家を知ることになった。

春の訪れとともにヒヤヒヤした菊池との交際が始まった。 

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