第7話

#7
3,293
2019/07/08 08:05
あなた
あなた
依頼ですかぁ…
太宰治
太宰治
うん。
この先の喫茶店が待ち合わせ場所でね
太宰さんの声は軽やかで踊るようだ。
もうその声で分かるよ。

女性なんでしょ。しかも美人。
どうせ敵いませんよ、と心の中でべーっと舌を出す。

ガチャ
太宰治
太宰治
ほら、此方が依頼人の



―佐々城信子さんだよ。
あなた
あなた
!?
なんてことだろう。

恐怖に体を支配され、動けなかった。
唇が自ずと震え、
血液の中に氷の粒が入ったようだった。
心臓が動く事に振動が体中を伝った。

彼女は、佐々城信子は、







―蒼の使徒事件の、真犯人だ。



ここで止めれば、六蔵という国木田さんと親しい少年や、監禁された人達が死ぬ事は無い。
でも六蔵少年が父を殺された恨みを果たすことは出来なくなるだろう。


警察に引き渡せば彼女はどうなるだろうか。

太宰治
太宰治
如何どうかしたかい?あなたちゃん?
あなた
あなた
あ、あ、あ、
呂律が上手く回らない。

ここに国木田さんがいたなら、
どうなっていたのだろうか。


でも、太宰さんが私の立場だったら、
どうするだろうか。


佐々城信子
佐々城信子
彼女は大丈夫ですか?
ゆっくり、かつ圧をじっくりかけるように微笑んだ。



無理だ。



私には、どうすれば良いのか分からない。

この街を、この世界を守ると言った矢先、
なんで情けないんだろう。



せいぜい外部からぽんと飛んできた余所者には
何も出来なかった。
あなた
あなた
ごめんなさいっ
ただ涙を隠して下を向き、逃げるしか無かった。
太宰治
太宰治
あっあなたちゃん…
喫茶店から離れた所で立ち止まった。

俯いた瞳からアスファルトにボタボタと滴が落ちる。



放心状態で、私はその斑点を見つめ続けた。




どのくらい経っただろうか。
太宰治
太宰治
あなたちゃん。
あなた
あなた
だ、太宰さん
太宰治
太宰治
如何したんだい、急に走って逃げたりして。
あなた
あなた
ごめんなさい。
私には、無理です
太宰治
太宰治
何が?
さっきから、



君は何に怯えているんだい?
あなた
あなた
あなた
あなた
この街を壊すのが怖いんです!

私はこの世界に来ちゃいけなかった!
太宰治
太宰治
何があったのか、教えてくれるね?
敢えて太宰さんは、彼女の事を口に出さなかった。


この人には、如何どうしてこんなに動揺しているのか
分かるのだろう。

彼女が何をしたかは知らないとして。
あなた
あなた
太宰さんは信じてくれますよね?
太宰治
太宰治
勿論もちろん
ふぅっと大きく息を吐いて、
彼女の事を全て話した。

彼女をここで止めることで、
未来がどう変わるか、
分かる範囲で考えた。
太宰治
太宰治
そうか。分かった。
あなた
あなた
教えてください。
私は如何どうすれば良いんでしょうか。
太宰治
太宰治
そんなの、自分で決めればいい。
あなた
あなた
え?
太宰治
太宰治
ここで彼女を止めても、
彼女を止めなくても、

前提は全て君の判断であることなんだ。



逃げても、未来の君は後悔しないかい?
あなた
あなた
太宰治
太宰治
1件の事件で選択を間違えただけで、
武装探偵社は崩れたりしない。
私が保証しよう。

例え国を敵に回しても、
仲間と自分の正義の為に対峙するんだ。
それが武装探偵社だよ。
あなた
あなた
…!
太宰さんは強いんだな。
そう沁々しみじみ思った。

私はもう揺るがない。















答えは決まった。

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