探偵社に帰る頃にはもう日暮れだった。
探偵社のドアを開けると
皆一様に幻の生き物でも見たかのような顔をした。
全員目が充血していて、
そこらじゅうにティッシュの塵が散乱している。
まさかポートマフィアに催涙系の異能を持つ人が!?
いや、んなわけなかろうが。
心の中でもツッコミはしっかりする。
乱歩さんが駆け寄ってきて私を抱き締める。
鏡花ちゃんも私を抱き締める。
数分後私は大きな達磨のようになっていた。
くるっと私に向き直る。
ちょっと、いや大分気持ち悪い感じで
めっちゃ号泣されてる。
どうやら人攫いに攫われたと思い込んだらしい。
まぁ人攫いとて違いはないが。
そうやって悲しみに暮れていた所で
私がひょっこり帰ってきたので
こんなにわーわー騒いでいるわけか。
敦くんの涙の可愛いことといったら。
なんか、守りたくなる感じだよね。
後輩が何言ってんだって話だけどさ。
いやこんなに心配してくれてるなら
ここは正直に答えよう。
太宰さん激怒りだろうけどな。
それはそれで面白いかも。
あ、ちょっといい事考えちゃった。
頬を赤らめて唇に触れる。
幼い時から演技等は得意なタチだ。
大人組がヒィっと声を上げた。
太宰さんが無言で立ち上がる。
何がはいだ。
思わず背筋が伸びる。
太宰さんから感じた事の無いオーラを感じていた。
国木田さんの涙が引っ込む程の怒り。
うん、やり過ぎたかな。
太宰さんは下を向いて探偵社を出ていった。
皆の視線を一身に浴びつつ慌てて追いかける。
エレベーターで置いていかれ階段を駆け下り、
何とか1階についた。
息があがりながらも
必死にエレベーターのランプを見ると、
まだ着いていないようだった。
ホッとしてエレベーターが来るのを待つ。
ちりん。
あっ、エレベーターが来た。
真後ろから太宰さんがにっこりと肩を叩いた。
真後ろとは階段である。
騙されたっ!!!
なるほど、
エレベーターを途中で降りて階段で私を追ったのか。
1階ボタンを押せば人は乗っておらずとも
1階まで下るので私の注意を向けることが出来る。
2階で止まってたらそりゃ不審だからね。
えぇ、最初っからバレてたんか。
演技等は得意なタチだ、とか言っちゃったじゃん。
太宰さんが手をヒラヒラさせて笑った。
憤慨しながらもエレベーターに乗り込むと、
ニヤニヤ笑って太宰さんが一緒に乗った。
私が閉のボタンを連打して、
ドアが閉まる。
太宰さんの視線が後ろから凄く来ているが、
気にしない。
なんかその事言ったら
「えぇ?そんな事ないよ?そんなに私を意識して…」
とかなんとか言われそう。
絶対嫌だ。
エレベーターが着くのをうずうずしながら待つ。
この気まずい状況から早く脱したい。
後ろから抱き締められた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。