話についていけなくなった。
飛び級ってどういうこと??
リヴァイ兵長に教わるのかな…。
なんだか、急に怖くなってきた。
私は、どうなるのだろう。
裁判にも出ないといけないのだろうか。
何も話せる自信がない。
だって私は、何も知らないのだから。
3人は扉の方へと歩いて行った。
扉を開けて、エルヴィン団長、ハンジさん、リヴァイ兵長の順に部屋を出て行った。
私は掛け布団を集めて顔を埋めた。
なんだか、困惑してる。
自分が兵士になるなんて。
「死」しか選択することができないなんて。
平穏な日々はもう元には戻らなくて。
その平穏でさえ当たり前の物じゃなかったんだって、最悪の形で気付かされた。
私は、やっぱり流されて生きていくんだろうな。
私はゆっくりと顔をあげた……。
目の前にさっき出て行ったはずのリヴァイ兵長が私を覗き込んでいた。
驚き過ぎて、変な声が出る。
鋭い眼が私の顔をじっと見つめる。
め、めっちゃ見られてる…。
穴が開くよ…。
リヴァイ兵長が、私を覗き込んでいた体勢を戻してベッドの横に立った。
私が顔を埋めたのを見て、戻ってきてくれたのだろうか。
私が苦笑いをしながら言うと、リヴァイ兵長はゆっくりと口を開いた。
どうして謝るのだろうか。
私は両手をぶんぶんと降って否定した。
少し背中が痛んだ。
絶体絶命の時、助けてくれたのはリヴァイ兵長なんだ。
私は目を見開けて、リヴァイ兵長の顔を見た。
はっとした。
私の運命は、巨人に喰われて死ぬ運命は、あの時、リヴァイ兵長に助けてもらったことで変わったんだ。
だから、あの時死んでおけば、こんな風にならなかったんだぞ、とでも言いたいみたいだ。
リヴァイ兵長はどすんと部屋にある椅子に腰掛けた。
そして、沈黙が流れた。
カーテンがひらりと揺れているのを、じっと見詰めることしか出来なかった。
リヴァイ兵長を見ると、私に目は合わせず、宙を見ていた。
私は、絶句した。
そのなかには、教会にいた人達がいるのかもしれない。
街の店のみんなや、子供たち。
服屋のおばさんや、さっきまで話していた人達。
私は、幸運だったのかな。
それとも、不幸なのかな。
巨人に喰われなかったのが、幸運なのか。
これからの運命が、不幸なのか。
今はまだ、分からない。
穏やかな声色で、リヴァイ兵長は言った。
私は、なんだか不思議な気持ちになった。
私が笑いながら言うと。
こ、こんな命令もあるのか。
兵士長様は、偉大だ…。
よく分からないけど、気分は良くしてくれたみたいで安心した。
私はちっとも状況が読めてないけど…。
私がうーん、と唸っていると、リヴァイ兵ち…おっと危ない…、リヴァイさんは、何か考え込むような表情をしていた。
それが、その姿が、なんとも綺麗で…切なくなった。
胸の奥の方から、痛みが起こった。
怪我のせいかな。
とても、痛い。
リヴァイさんは、スタスタと部屋を出て行った。
今度こそ、1人になって、少し寂しくなった。
ベッドに寝転んで、ため息をつく。
今日は、たくさん話し過ぎて疲れてしまった。
横たわるとすぐに眠気が来た。
まだ身体が本調子じゃないみたいだ。
そうだ。
生きなきゃならない。
私は、生きている。
亡くなったみんなのことを、私は覚えている。
みんなを忘れないように。
心の中に、留めておくんだ。
そうして、生きなきゃいけない。
私の人生は、ここから始まるのだろう。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!