そうは言ったものの、後頭部を打ったため、頭がガンガンと痛んで来た。
そんな私を見てか、彼が私の腕を掴んで、自らの身体へ回した。
冷たい言い方だけど、気を使ってくれているのがわかった。
私は言われた通り、両腕を彼の腰に回して、身体をつけた。
幾分か振動が弱くなったように感じる。
私が痛みと戦っていると、いつの間にか調査兵団の軍勢に接触していた。
馬に乗った5人の兵士と、荷馬車があった。
「エルヴィン」と呼ばれて、その中の1人が振り向く。
エルヴィンさんは私を見て、目を見開けた。
私は、なんだか目を逸らしてしまう。
その代わりに、前の彼の背中に頬を付けた。
1人の声が響いた。
ハンジと呼ばれた女性は、頬を膨らませ、落胆した。
女性だけどちょっと中性的な人。
エルヴィンさんの命令で2人の兵士が左右に分かれて進んで行った。
またエルヴィンさんは筒のような物を取り出し、銃に取り付け、彼の右手頭上に撃った。
すると緑色の煙が上った。
やっぱり進路変更の時に使う物だったんだ。
彼が馬を下りて、私に手を差し出す。
私は手を伸ばしてその手を取ると、彼は私の腕を首に巻かせた。
そのまま私を引っ張り、馬から下ろす時に、私の脚に腕を通し仰向けにして、また軽々と抱き上げてしまった。
なんか恥ずかしくなってきた…。
彼は私を荷馬車の上に乗せると、エルヴィンさんのところへ行った。
エルヴィン…たしか、調査兵団団長はエルヴィン・スミスという名前だったかもしれない。
あの人が、兵団のトップ……。
ハンジさんは着ていた隊服を脱いで、それを荷馬車の床に敷き、寝転がれるようにしてくれた。
そして馬に乗った。
彼が馬に乗ってこちらに来た。
私は少し不思議に思って問うた。
たくさんの人が、トロスト区にいた。
襲撃から何時間経ったか分からないけど、もう手遅れかもしれない……。
人類最強の男。
そんな別名を持つ、存在。
立体機動装置を使いこなし、鳥のように宙を舞っていた姿が、脳裏に焼き付いている。
私の命の恩人。
彼はそう言い、手綱をさばき、馬を走らせていった。
どうか、無事で。
人類最強の男に、そう思った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。