私は、リヴァイさんの愛馬に乗せてもらっている。
まだ兵士になる訓練が始まっていないため、兵団が使う大きな馬にはとてもひとりで乗ることができない。
班の他の皆さんの馬には、荷物も乗っていて、唯一荷物の少なめのリヴァイさんの後ろに私は乗った。
調査兵団特別作戦班。
通称『リヴァイ班』である。
それは、エレンの巨人化能力の解析と評価試験の任務のための班だ。
あ。
返事がないと思ったら。
リヴァイさんはエレンのことをじっと見ている。
いや、監視かな?
リヴァイ班のメンバーは、すごく強い。
らしい。
私はまだみなさんの戦闘を見たことがないから、わからない…。
でも、リヴァイ班に選ばれるくらいにはみなさん強いみたい。
私はよく分からないけど、巨人討伐数とかがとっても多いんだって。
私たちの前に古い大きな建物が見えて来た。
それが旧調査兵団本部。
私はペトラさんに手伝ってもらって荷物を地面に置いた。
一体何をするのだろうか…っ。
リヴァイさん、三角巾をして、雑巾とはたきを両手に持っている。
リヴァイさんは、私に桶を差し出した。
受け取ると、中には数枚の雑巾と、ハタキや洗剤、身に付ける布がちゃんと入っていた。
みんなの分、持ってきたの…かな?
どうやらリヴァイさんにとって、掃除は本当に重要なことらしい。
私は布を口に当て、頭の裏で結んだ。
私は、台所を担当することになった。
長い間、風が通っていないから、すごく埃っぽい。
食器類も少しあるけど、全部洗わないといけないな。
食器を棚から一時外に避難させ、ハタキで埃を掻き出す。
なかなかに大変そうだ。
ほうきでゴミを掃き出し、雑巾で全て拭いていく。
台所を拭いていると、調理場が綺麗な大理石だということに気がついた。
こんな台所、見たことない。
まだ皆さんの名前が覚えられない。
エルドさんは私の横に来て、棚の高い所を拭いてくれた。
ポトン…
綺麗だなぁと大理石を見ていたら、上からいきなり虫が落ちてきて、腰を抜かす。
毛虫はやめて。
ペトラさんにすがりつくと、お姉さんのように笑いながらなだめてくれた。
外に出て、少し休憩をとる。
埃だらけの服を払いながら言った。
ペトラさんは本当にお姉さんのようだ。
トロスト区にいた時の…みんなを思い出す。
みんな優しい人たちだった。
私は、また調理場へ戻った。
トロスト区にいた頃は、よくそこらじゅうのお店に清掃のお手伝いをしてたな。
できることって言ったら、清掃と洗濯と料理くらい。
一人暮らしでの最低基準くらいだ。
それも全部、街の人たちに習ったこと。
親のいない私を、暖かく見守ってくれた。
悲しくなるし、まだ認められないから、今は言えない。
感謝の気持ちを言葉に表すことなんて。
リヴァイさんが清掃し終えたばかりの調理場に来た。
リヴァイさんは部屋の中を歩いて、くまなく見て回っていた。
エレンはやり直しをくらったみたいで、リヴァイさんに言われて走って出ていってしまった。
全員が返事をして、リヴァイさんは調理場から出て行った。
皆さんがそれぞれの部屋に戻って行ったので、私も与えられた部屋に向かった。
そこの掃除はまだ残っている。
私は階段を上り、最上階へと進む。
もともとお城だったから、登ったことがないくらい階段が長い。
まったく、どうして私の部屋は1番上なんだろうか。
エレンは地下の部屋だって言われてたけど、よっぽど地下のほうが疲れないよ。
ようやく最上階に着いて、私の部屋に入る。
扉を開けると、机と椅子、ベッドが置いてあった。
しかも窓が開いているし、埃もない。
誰かが掃除してくれたようだ。
私は窓に近づき、外を覗いた。
見晴らしがいいのはもちろんなんだけど、1番上はなかなか怖いな。
地上に落ちたら絶対死ぬよ。
なんだか、この部屋を与えられたのには意味がある気がする。
私のことをよく思わない人達に見つかりにくくするためなのかな。
それとも私自身がここから逃げられないようにするためなのだろうか。
5年前のシガンシナ区襲撃、今回のトロスト区襲撃。
今まで攻撃してこなかった巨人たちがこの周期で攻撃してくるなんて。
エレンの能力や、私のことと関係がないなんて言いきれない。
私は、これから兵士になる。
兵士になって生きていくしかない。
兵士として死ぬしかない。
こんなに平和な風に当たっているのに、私の置かれている状況というのは、予測も出来ないような未来と常に隣り合わせなのかもしれない。
ごく普通の平民だったのに、今や国民の敵だなんて疑われてる。
いつ、誰に狙われてもおかしくないんだって、前の裁判でひしひしと感じた。
実際のところ、いきさつがあるとは言えど兵士になるって決めたのは私自身なのだ。
調査兵団が守ってくれる、なんて保証も私にはないのかもしれない。
考えすぎだったのかな。
私はホコリだらけになった自分の服をみて苦笑いした。
ペトラさんは本当にいいお姉さんって感じだな。
女の人がいてくれてよかったと思う。
私は椅子に腰掛け、ひとつため息をついた。
今日はよく働いた。
明後日からは訓練だ。
これくらいで疲れちゃってたら、だめだな。
私が立体機動装置なんて使える姿なんて想像も出来ないよ。
ましてや、巨人と戦うなんて。
不安だけど、これが運命だと思う。
戦うことが私の生きる意味になるのだから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!