だんだんと点のようなものが大きくなっていき、馬と緑色のマントが認識できる。
ここで助けを求めなきゃ、私は…。
絶望的だった状況に光が指した。
この距離が近くなって、私の声が聞こえるようになる時。
そこがチャンス。
調査兵団に私の命を掛ける。
だんだんと近くなる距離。
まだ、まだだ。
もっと声が届く所まで。
私の姿が確実に相手に見える距離まで…。
ドドドドドドドドドド!!
パシューー!
急に調査兵団の軍勢の中から赤色の煙が上がった。
その1発をきっかけに赤色の煙が広範囲から何本も上がる。
そして、1本の緑色の煙が私のまっすぐ先で左に傾くように上がった。
訳が分からず見ていると、赤色の煙の時と同じく、緑色の煙が左に傾くように次々上がって行く。
私は上を向いて、どうして左に傾けて撃っているのだろうか、と思った。
そして…目の前に視線を戻した時。
さっきまで私の目の前をまっすぐ進んで来ていた調査兵団が左側に移動していた。
…そうか…!
巨人を避けるためなんだ。
できるだけ交戦しないように、進路を変えたんだ。
どうすればいい…。
もうどうしようもない。
助けを求めても、この距離じゃ声は届かない。
すぐそこにいるのに、どうすることも出来ないの…?
一縷の望みに掛けるしか、もうない。
私は巨人の掌の上に立ち上がった。
グラグラと揺れるので、落ちてしまうかもしれない。
だけど、少しでも姿が見えるように。
今、誰かと目が…合った。
軍勢の中のたった1人だけ。
緑のマントをたなびかせ、馬でかけているひとりの人がこちらを見ている。
ああ。
お願い。
私は自分の声とは思えない大きな声を出した。
自分の声で耳が痛くなる程に。
足元がぐらつき、私は巨人の掌にペタリと座り込む。
巨人は私を目の前に持っていき、またあの目をした。
でも、様子がおかしい。
喉を鳴らして、苦しそうにしている。
大きく開かれた目には私が映っている。
すると口をパクパクとさせて、何かを言おうとしているように声を出した。
今…なんて…。
私が気を取られている間に、巨人の口が大きく開かれた。
ああ喰べられる…!!
私は目をギュッと閉じた。
ケイヤクヲ…?
契約…を?
どういう意味なの。
喰べられたくない。
死にたくない。
誰か…だれか!!
ーーザシュッ!!!!
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!