深い眠りに長い間いるようで、生きているのか死んでいるのかわからなくなってきた。
ふわふわした意識の中で自分に問いかける。
すると、世界が揺れ、声が聞こえてきよった。
‘‘起きろ、スズ’’
‘‘助かったんや、目を覚ましてくれ’’
その声は灰崎……俺の仲間に違いなかった。
震えた俺の声が耳に響いて、俺が生きとることを確信した。
ゆっくり目を開いてみると、眩しい光がちょうど俺を見ているやつの顔に被さってよく見えへん。
なぜか上手く話せへん俺にそいつは口角を上げた。
そいつは両頬にえくぼを浮かべ、顎にホクロがあった。
そいつは灰崎ではなかった。
そいつはおちゃらけた声で聞きながら左目をグリグリと押してきよった。
不思議と痛まへんのと息がしづらいのでまた麻酔がかかっとるのかと思うと、情報過多で逆に冷静になる俺。
不敵に笑うリュウは俺の左頬を撫でた後、抱いていた俺の身体をベッドに落とす。
力が入らない俺は左を向いたままで、顔の近くにあるバラのような花とクローバーの形のような花の匂いを嗅ぐことしか出来ない。
リュウは嘲るように言うから、悔しくて力を入れてみる。
身体を振って右手を伸ばそうとしたら、ぶらんと垂れ下がっただけ。
普通の出来事のように言うたリュウは俺をまた抱く。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!