ガチャッ
いつもより玄関のドアを開けるのが重く感じるのは気持ちのせいだろうか。
……………。
やっぱ、合わす顔がないや。
わかりやすい嘘をひとーつ。
晴人が呆れた顔をする。
今、だめなんだって。
今、あなたから蘭子のことを語られると、また意地悪な自分が出てくるから、だから、
あぁ、わざわざ家に来てくれた好きな人に言う言葉じゃないだろ、自分。
本当に、最低だ。
私は家に鍵をかけることなんか知らんぷり。
晴人の横を走り抜けた。
向かう先は、あそこ。
晴人は相変わらず追いかけてくる。
息切れが激しくなる。
もう、本当にどうでもよくなってきた。
好きな人にまでこんなこと言っちゃうんだから。もう手遅れだ。
潮の匂いがしてきた。
私が目指したそこは
海だ。
何するって、別に予定なんかない。
昨日ここで無心状態になれたときみたいに。
無心になって、
全て忘れ去りたい。
ただ、
晴人が必死に追いかけてくれたのはなぜ?
こんなにも心配して聞いてくるのはなぜ?
私のことが、好きだから?
友達だから?
気づいた時には私は、泣いていた。
その時だった
蘭子の顔は涙で埋もれていた。
どうしてあなたが泣いてるの?
どうしてあなたが謝るの?
どうして、、
私たちは抱き合った。
きつくきつく。もう、二度とこんな風に離れないように。
私たちは微笑みあった。
もう二度とこんなすれ違いが起きないように。
私たちはそのあとたくさん話した。
たくさん笑った。
帰り道。
私が見た景色は昨日とは違っていた。
すべて、何もかもがどうでもよくって、
見てると感情とかぜんぶ吸い込まれてく感じがした
あの水平線でみた夕暮れ。
私が帰り道見た景色は、
オレンジ色に輝いて、
全てを温かく照らしてくれている太陽がゆっくりと月と交代するために沈んでいく様子。
私はいままでの人生の中で1番この景色が美しいと思えた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。