第7話

しあわせがいっぱい。
田中 哲太
田中 哲太
あー、ケーキ
美味かったなぁ〜
吉岡 茉優
吉岡 茉優
ほんと、美味しくて
ちょっと食べすぎちゃった
田中 哲太
田中 哲太
俺も〜
歓迎パーティがお開きになった今、田中くんと家までの道を歩く。

お互い自転車なのに、自転車に乗ることはせず、ゆっくりゆっくり歩くこの時間が心地良い。
吉岡 茉優
吉岡 茉優
……っくしゅん!
田中 哲太
田中 哲太
寒い?
吉岡 茉優
吉岡 茉優
ううん、大丈夫!
今日は天気も良くて、小春日和だったから、つい油断してコートを着ずにセーラーにカーディガンを羽織ってマフラーを巻いて家を出てしまった。

……今朝の私は帰りがこんな遅くなるとは思ってなかったから、仕方ないとはいえ、夜はやっぱりまだまだ冷えるな。
田中 哲太
田中 哲太
ん、上からこれ羽織っとき
吉岡 茉優
吉岡 茉優
え?……いや、でも
田中 哲太
田中 哲太
ええから!
風邪引かせたないねん
自転車を押す手を止めた田中くんが、自分の学ランを脱いで、私に差し出すから戸惑ってしまう。

だって、そんなことしたら……
吉岡 茉優
吉岡 茉優
田中くんが風邪引いちゃうよ
田中 哲太
田中 哲太
俺はパーカー着てるから
こんくらいいける
吉岡 茉優
吉岡 茉優
でも……
素直に受け取れずにいた私の肩に、ふわりとかけられた学ランから、田中くんの体温を感じる。
田中 哲太
田中 哲太
吉岡が風邪引いたら
俺が嫌やねん
ずるい……。

優しい顔でそんなこと言われてしまったら、もう何も言えなくなってしまう。
吉岡 茉優
吉岡 茉優
……ありがとう、温かい
田中 哲太
田中 哲太
おう!
……あ、それから
吉岡 茉優
吉岡 茉優
……?
田中 哲太
田中 哲太
俺からも吉岡に
プレゼントあんねん
吉岡 茉優
吉岡 茉優
え?
一瞬、自転車のハンドルに伸ばしかけた手を、思い出したかのように前カゴに入れられたリュックへと伸ばして、

中から、ピンク色の包みを取り出した。
田中 哲太
田中 哲太
吉岡がよう眠れるように
うちの父ちゃんに頼んで
作ってもろうてん……
田中 哲太
田中 哲太
吉岡の歓迎パーティやるって決まって
俺からもなんかあげたいな〜って
吉岡 茉優
吉岡 茉優
これ……もしかして!
受け取ってすぐ、中身が想像以上にフワッとしたものだと分かった。
吉岡 茉優
吉岡 茉優
今、開けてもいい?
小さく頷いた田中くんを見て、私は可愛らしい包装紙を丁寧に開けていく。
吉岡 茉優
吉岡 茉優
わ、……ふわふわ
田中 哲太
田中 哲太
なんとなく恥ずかしくて
みんなの前では渡されへんかった
少し照れてる田中くんにつられてこっちまで恥ずかしくなってしまう。

田中くんがくれたのは、軽くてふんわり柔らかなブラウンとオフホワイトの温かいブランケットだった。

茶々丸を撫でてる時を思い出させる、どこか懐かしい触り心地にホッとする。
吉岡 茉優
吉岡 茉優
こんな素敵なもの、
もらっちゃっていいの……?
田中 哲太
田中 哲太
逆にもらってくれな困るで!
吉岡 茉優
吉岡 茉優
あぁ……いいのかな、
1日にこんなにいっぱい幸せ感じて
田中 哲太
田中 哲太
幸せはいくつあっても困らへん
吉岡 茉優
吉岡 茉優
……ありがとう、田中くん。
ブランケット、大事に使う
嬉しそうに頷いて再び歩き出した田中くん。
いつからだろう、田中くんの言葉や仕草一つ一つにドキドキしている私がいる。

もっともっと、仲良くなりたい。
いつか、田中くんの特別になりたい。

なんて───。


***
吉岡 茉優
吉岡 茉優
これからよろしくね!
夜。

お風呂から上がり、ベッドの上で美菜子ちゃんと遥ちゃんからもらったおづみんストラップに話しかけながら、今日のことを思い出す。
吉岡 茉優
吉岡 茉優
今日は楽しかったね、おづみん
転校するって決まった時の不安でいっぱいだった私に教えてあげたいくらいだ。こんなにも素敵な人たちに恵まれて、楽しい毎日を送ってるよって。
吉岡 茉優
吉岡 茉優
……まさか、田中くんからプレゼント
もらえるなんて思ってもみなかったけど
言いながら、田中くんにもらったブランケットを羽織ると、すぐに心地のいい温かさに包まれた。

トクトクと一定のリズムを刻む心臓の音を聞きながら、ブランケットの心地良さに身を任せる。

……あぁ、この感じ。茶々丸を抱きしめて眠っていた頃に似ている気がする。だけど、目を閉じて一番最初に浮かんできたのは、茶々丸じゃなくて優しく笑う田中くんだった。
吉岡 茉優
吉岡 茉優
ねぇ、おづみん。
……これって、恋だと思う?
なんて、おづみんに問いかけてみても、もちろん答えてはくれない。

いつもの入眠障害が嘘みたいに、スーッと眠りに落ちていく感覚。だんだんと薄れていく意識の中で、私はただ、しあわせいっぱいだった。