歓迎パーティがお開きになった今、田中くんと家までの道を歩く。
お互い自転車なのに、自転車に乗ることはせず、ゆっくりゆっくり歩くこの時間が心地良い。
今日は天気も良くて、小春日和だったから、つい油断してコートを着ずにセーラーにカーディガンを羽織ってマフラーを巻いて家を出てしまった。
……今朝の私は帰りがこんな遅くなるとは思ってなかったから、仕方ないとはいえ、夜はやっぱりまだまだ冷えるな。
自転車を押す手を止めた田中くんが、自分の学ランを脱いで、私に差し出すから戸惑ってしまう。
だって、そんなことしたら……
素直に受け取れずにいた私の肩に、ふわりとかけられた学ランから、田中くんの体温を感じる。
ずるい……。
優しい顔でそんなこと言われてしまったら、もう何も言えなくなってしまう。
一瞬、自転車のハンドルに伸ばしかけた手を、思い出したかのように前カゴに入れられたリュックへと伸ばして、
中から、ピンク色の包みを取り出した。
受け取ってすぐ、中身が想像以上にフワッとしたものだと分かった。
小さく頷いた田中くんを見て、私は可愛らしい包装紙を丁寧に開けていく。
少し照れてる田中くんにつられてこっちまで恥ずかしくなってしまう。
田中くんがくれたのは、軽くてふんわり柔らかなブラウンとオフホワイトの温かいブランケットだった。
茶々丸を撫でてる時を思い出させる、どこか懐かしい触り心地にホッとする。
嬉しそうに頷いて再び歩き出した田中くん。
いつからだろう、田中くんの言葉や仕草一つ一つにドキドキしている私がいる。
もっともっと、仲良くなりたい。
いつか、田中くんの特別になりたい。
なんて───。
***
夜。
お風呂から上がり、ベッドの上で美菜子ちゃんと遥ちゃんからもらったおづみんストラップに話しかけながら、今日のことを思い出す。
転校するって決まった時の不安でいっぱいだった私に教えてあげたいくらいだ。こんなにも素敵な人たちに恵まれて、楽しい毎日を送ってるよって。
言いながら、田中くんにもらったブランケットを羽織ると、すぐに心地のいい温かさに包まれた。
トクトクと一定のリズムを刻む心臓の音を聞きながら、ブランケットの心地良さに身を任せる。
……あぁ、この感じ。茶々丸を抱きしめて眠っていた頃に似ている気がする。だけど、目を閉じて一番最初に浮かんできたのは、茶々丸じゃなくて優しく笑う田中くんだった。
なんて、おづみんに問いかけてみても、もちろん答えてはくれない。
いつもの入眠障害が嘘みたいに、スーッと眠りに落ちていく感覚。だんだんと薄れていく意識の中で、私はただ、しあわせいっぱいだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!