田中くんにもらったブランケットのおかげか、話し相手になってくれるおづみんのおかげか…… 最近では驚くほど入眠障害の症状が和らいだ。
毎晩ブランケットに包まれて、おづみんに話しかけているうちにあっという間に夢の中だ。
短い春休みはあっという間に終わって、私たちはめでたく2年生になった。
クラス替えはないけれど、2年生からコース別の授業が始まり、今日からそれぞれのコースで授業を受ける毎日が始まる。
私と遥ちゃんは、理系コースで、美菜子ちゃんは、文系コース。1人だけ離れてしまったのが寂しいらしい美菜子ちゃんは、珍しく頬をふくらませている。
そして、田中くんも美菜子ちゃんと同じ文系コースを選択したらしい。薄々そんな気はしてたけど、張り出された理系コースの一覧表に名前がなかったときは、少しだけ胸がザワついた。
何とか気持ちを立て直した美菜子ちゃんは、笑顔で頷くと”じゃ、また後で!”と、文系コースの授業が行われる教室へと向かって行った。
……何も変わらないと分かっていても、やっぱりどこか寂しい。
ふと、遠くに友達数人と歩く田中くんの背中を見つけて、目で追ってしまう。
不意に振り向いた田中くんと目が合って、ドキッと心臓が暴れ出す。私に気付いた田中くんは一瞬驚いた顔を見せた後、ニッと笑うと軽く片手を上げてくれた。
たったそれだけの事が、すごく嬉しくて。
私も小さく笑って手を振り返した。
クラスが同じとはいえ、コース別じゃ、田中くんとはあんまり話せなくなっちゃうのかな。
***
理系コースの教室に入ってすぐ遥ちゃんと別れ、席について授業の準備を始めた私は、ストンッと隣の席に誰かが座った気配がして顔を上げた。
そこに座っていたのは、こちらを見てニコリと微笑む顔面偏差値高めの爽やかメガネ男子。
おまけに、私の名前まで知っているらしい……。
───!?
すました顔してサラッと……。
西くん……今、なんて言った?
揺るぎない攻めに、どう反応していいか戸惑ってしまう。
今まで、こんなにグイグイ好意を伝えられたことは1度もなかったし、私を可愛いって言ってくれるような人も……いなかった。
こういう時の上手い交わし方って……?
……うっ、反応に困ってることバレてるし。
見た目はTHE理系のインテリ男子なのに、中身はグイグイ肉食系で。まさに、あれだ!ロールキャベツ男子。
って、今はそんなことどうでも良くて!!
タイミングよく教室に入ってきた先生に、私たちの会話は強制的に終わりを迎えた。
とは言え、隣から感じる視線に早くも胃に穴が空きそうだ。あぁ、これはもしかしたら私……、とんでもない新学期を迎えてしまったかもしれない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。