第8話

春、寂しさと戸惑い。
田中くんにもらったブランケットのおかげか、話し相手になってくれるおづみんのおかげか…… 最近では驚くほど入眠障害の症状が和らいだ。

毎晩ブランケットに包まれて、おづみんに話しかけているうちにあっという間に夢の中だ。
石井 美菜子
石井 美菜子
ウチだけ違う授業受けるなんて
なんか寂しいなぁ
吉岡 茉優
吉岡 茉優
一緒じゃないなんて変な感じだね
短い春休みはあっという間に終わって、私たちはめでたく2年生になった。

クラス替えはないけれど、2年生からコース別の授業が始まり、今日からそれぞれのコースで授業を受ける毎日が始まる。
三好 遥
三好 遥
でもほら、
授業終わったら会えるんやし
哲太くん達もおるやろ?
石井 美菜子
石井 美菜子
哲太がいたって
2人がいなきゃ嫌やもん〜
私と遥ちゃんは、理系コースで、美菜子ちゃんは、文系コース。1人だけ離れてしまったのが寂しいらしい美菜子ちゃんは、珍しく頬をふくらませている。

そして、田中くんも美菜子ちゃんと同じ文系コースを選択したらしい。薄々そんな気はしてたけど、張り出された理系コースの一覧表に名前がなかったときは、少しだけ胸がザワついた。
吉岡 茉優
吉岡 茉優
コースが違ったって
今までと何も変わらないよ!
三好 遥
三好 遥
そうそう。
授業終わって戻る教室もお昼休みも
帰りのHRも放課後も一緒やで!
石井 美菜子
石井 美菜子
……そやな!
ウチらずっと一緒やもんな!
何とか気持ちを立て直した美菜子ちゃんは、笑顔で頷くと”じゃ、また後で!”と、文系コースの授業が行われる教室へと向かって行った。

……何も変わらないと分かっていても、やっぱりどこか寂しい。

ふと、遠くに友達数人と歩く田中くんの背中を見つけて、目で追ってしまう。
田中 哲太
田中 哲太
……!
吉岡 茉優
吉岡 茉優
……あっ、
不意に振り向いた田中くんと目が合って、ドキッと心臓が暴れ出す。私に気付いた田中くんは一瞬驚いた顔を見せた後、ニッと笑うと軽く片手を上げてくれた。

たったそれだけの事が、すごく嬉しくて。
私も小さく笑って手を振り返した。

クラスが同じとはいえ、コース別じゃ、田中くんとはあんまり話せなくなっちゃうのかな。


***

理系コースの教室に入ってすぐ遥ちゃんと別れ、席について授業の準備を始めた私は、ストンッと隣の席に誰かが座った気配がして顔を上げた。
西 雅也
西 雅也
吉岡 茉優ちゃん、やんなぁ?
吉岡 茉優
吉岡 茉優
……あ、はい。
でも、何で私の名前……?
そこに座っていたのは、こちらを見てニコリと微笑む顔面偏差値高めの爽やかメガネ男子。

おまけに、私の名前まで知っているらしい……。
西 雅也
西 雅也
僕は3組の西 雅也にし まさや
よろしくね
吉岡 茉優
吉岡 茉優
西くん……。
こちらこそよろしくね
西 雅也
西 雅也
……ごめん俺、今めっちゃ
浮かれてるかもしれへん
吉岡 茉優
吉岡 茉優
え?
西 雅也
西 雅也
実はずっと、茉優ちゃんと
話してみたいと思っててん
吉岡 茉優
吉岡 茉優
……わ、私と?なんで?
西 雅也
西 雅也
ん〜。
多分、簡単に言えば、
一目惚れ……になるんかな


───!?

すました顔してサラッと……。
西くん……今、なんて言った?
西 雅也
西 雅也
転校生の茉優ちゃんのことは
うちのクラスでも
話題になっとってんけど
西 雅也
西 雅也
たまたま廊下ですれ違ったとき
めっちゃ可愛くて驚いた
揺るぎない攻めに、どう反応していいか戸惑ってしまう。

今まで、こんなにグイグイ好意を伝えられたことは1度もなかったし、私を可愛いって言ってくれるような人も……いなかった。

こういう時の上手い交わし方って……?
吉岡 茉優
吉岡 茉優
……あの、その
西 雅也
西 雅也
反応に困ってるとこも
めっちゃ可愛いなぁ
……うっ、反応に困ってることバレてるし。

見た目はTHE理系のインテリ男子なのに、中身はグイグイ肉食系で。まさに、あれだ!ロールキャベツ男子。

って、今はそんなことどうでも良くて!!
吉岡 茉優
吉岡 茉優
可愛いとか言われ慣れてないから
正直、戸惑いの方が大きいって言うか
西 雅也
西 雅也
急にこんな話してごめんな?
吉岡 茉優
吉岡 茉優
ううん!
あの、気持ちは……
すごく嬉しいです
西 雅也
西 雅也
ほんまに?
なら、俺もっと攻めるで?
吉岡 茉優
吉岡 茉優
……え!?
先生
先生
よーし、授業始めるで〜
タイミングよく教室に入ってきた先生に、私たちの会話は強制的に終わりを迎えた。

とは言え、隣から感じる視線に早くも胃に穴が空きそうだ。あぁ、これはもしかしたら私……、とんでもない新学期を迎えてしまったかもしれない。