美菜子ちゃんのおうちは学校から自転車で10分ほどの場所にある一軒家で、そのすぐ隣にある可愛らしい雰囲気のケーキ屋さんは美菜子ちゃんのお母さんのお店らしい。
……おうちがケーキ屋さんって、羨ましいな。
言いながら、なぜか家ではなくお店の前で自転車を停めると、迷わず入口へと向かって歩き出す美菜子ちゃん。
その後をついて行く遥ちゃんに、私も慌てて自転車から降りて後を追った。
***
店の中に入った瞬間、パンパンパーンとクラッカーの弾ける音に思わず目を見開く。
そこには、田中くんをはじめ、クラスのみんなが大勢集まっていて、お店の奥の壁には『ようこそ、泉大津市へ』と書かれたカラフルな垂れ幕まで用意されていた。
こんなことされたら、泣いてしまいそうになる。
まさか、私のためにみんなが時間をかけて準備しくれてたなんて……嬉しいに決まってる。
田中くんに厳しいコメントをする2人に、つい笑ってしまう。
私も嬉し泣きなんて、初めてしたよ。
本当に嬉しくても涙って出てくるんだな……。
***
美菜子ちゃんのお母さんのお店は、ケーキ屋さんと言っても、お店の中で食べられるちょっとしたカフェスペースも併設されていて、今日は特別に私の歓迎パーティのために貸切にしてくれたらしい。
美菜子ちゃんのお母さんが作ってくれたケーキは、ふわっと甘くて、いちごの酸味が爽やかで。
口の中で溶けていくクリームと、しっとりとしたスポンジのハーモニーが絶妙だ。
それを頬張りながら目を輝かせるみんな。
そんなみんなを見渡して、改めて良い友達に恵まれたなぁと幸せを感じる私。
そう言って美菜子ちゃんが差し出したのは、赤いリボンが巻かれた透明なラッピング袋の中で、私に向かって微笑む可愛らしいおづみんストラップ。

コソッと声のボリュームを下げた美菜子ちゃんに、ついつい私も小声になる。
嬉しいような、恥ずかしいような。
田中くんにとってはほんのささないな事でも、私にとっては特別なこどのように感じる。
少し離れた場所で、友達とふざけながらケーキを頬張る田中くんにも心の中でお礼を言う。
私の第二のふるさとになるこの場所は、たくさんの温かい心と、優しさに溢れている。
拗ねる田中くんを横目に、笑い合う私たち3人の手には、おそろいのおづみんストラップ。
昨日よりもっとずっと仲良くなれた気がして嬉しいのは、きっと私だけじゃないよね?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!