田中くんに泉大津市を案内してもらった2日後の月曜日。
朝、私が教室に着くなり、先に来ていた田中くんが……
なんて、大声でクラスのみんなに暴露し始めるから、内心とってもヒヤヒヤしてしまった。
───だけど。
それがきっかけで、クラスの女子に取り囲まれることになった私は、おかげで驚くほど早くクラスに馴染めてしまった。
***
今思えばあれは、友達作りが苦手な私のために田中くんが気を利かせてくれたんだろうな。
そう思うと、田中くんには出会った日から、本当に感謝しかない。
クラスのムードメーカーで、気さくで優しくて、実は周りを良く見ていて……。
誰に対しても平等に接することが出来る非の打ち所がない好青年。
終業式を終えた今、訪れた春休みに浮かれる教室の中心で、田中くんの周りをクラスメイトたちが取り囲むように集っている。
クスクスと笑いながら、完全に私をからかっている2人とは、今じゃすっかり仲良くなった。
優しくておっとりした性格の三好 遥ちゃんと明るくていつも元気な石井 美菜子ちゃん。
自分でも知らないうちに、田中くんのことを目で追ってたなんて……。しかも、美菜子ちゃんと遥ちゃんにバレたし、すごい恥ずかしい。
ニヤニヤと笑いながら、私の顔を覗き込んで来る2人に耐えられず両手で顔を覆う。
周りから見たら、私って田中くんのこと好きなように見えるのかな?確かに嫌いじゃないし、田中くんのこと目で追っちゃうのも事実だけど……。
そんなことを考えながら、覆っていた手をどけた私の視線は、また無意識的に田中くんへ……。
───バチッ
ぶつかってしまった視線を慌てて逸らせば、ドキドキと心なしか心臓がうるさい。
ええ、どうしよう。
もしかして私、田中くんのこと意識しちゃってるのかな?
美菜子ちゃんの気持ちが嬉しくて、つい涙腺が緩む。じわりと滲んだ涙に気づかれないように、私は2人に精一杯の笑顔を向けた。
明日からついに春休み。
クラスメイトはみんな面白くて優しいし、私を友達と呼んでくれる子たちが出来た。
この街で過ごす私の毎日は、きっとこれからどんどん色鮮やかになっていく───。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。