第2話

迷子の帰り道。
2,922
2020/04/20 05:00
田中 哲太
田中 哲太
この時期に転校してくるなんて
珍しいなぁ
吉岡 茉優
吉岡 茉優
お父さんの仕事の都合で、
このタイミングになっちゃったんだ
吉岡 茉優
吉岡 茉優
もうすぐ春休みだし
タイミング悪いよね、本当に
田中くんと並んで歩く道。
朝歩いた道と、似てるような……違うような。

まだまだ、この街に慣れるまで時間がかかりそうだ。
田中 哲太
田中 哲太
タイミング悪い?なんで?
お互い自転車を押しながら歩いてる今、聞こえてくるのはタイヤの回る音。
吉岡 茉優
吉岡 茉優
私、元々……友達作りが苦手で。
なのに転校初日の今日は金曜日だし
1ヶ月もしないで春休みだし
……友達作りどころか、今日はクラスのみんなとまともに会話すらできなかった。
田中 哲太
田中 哲太
あぁ、そうか。
転校してきたばっかで色々不安やんな?
吉岡 茉優
吉岡 茉優
うん……とにかく今は、
早く友達できるといいな〜って
田中 哲太
田中 哲太
なーんや。
そんなことやったらもうおるやん!
吉岡 茉優
吉岡 茉優
え?
田中 哲太
田中 哲太
俺ら、もう友達やろ?
”な?”とドヤ顔で私の顔を覗き込む田中くんは、冗談を言ってるようには見えない。

”本気でそう思ってる”って感じ。
吉岡 茉優
吉岡 茉優
友達に、なってくれるの?
田中 哲太
田中 哲太
あほー。俺は友達でもないやつ
わざわざ送って帰るほど暇ちゃうねん
吉岡 茉優
吉岡 茉優
……さっきは、
”困ってるやつ助けるのが
俺のポリシーやねん”って
田中 哲太
田中 哲太
と、とにかく!
俺と吉岡はもう友達や。
遠慮せんでええって!
吉岡 茉優
吉岡 茉優
……っふ、あはは
調子のいい田中くんに、思わず声を出して笑ってしまう。そんな私に、田中くんは”笑うな”と言いながらもどこか優しい顔をする。

私のことを思って言ってくれてるんだって思うと、自然と頬は緩んで、胸の辺りがほっこりした。
吉岡 茉優
吉岡 茉優
あ、この道……
田中 哲太
田中 哲太
お、この道通った記憶ある?
それやったら近いんかなぁ、俺んちと
見覚えのある道に、ホッとする。
よかった、ここからなら1人で帰れる!
吉岡 茉優
吉岡 茉優
ありがとう、田中くん!
この道を真っ直ぐ行くと
もうすぐ家が見えると思う
田中 哲太
田中 哲太
迷子から脱出して良かったわ!
ちなみに俺んち、ここやねん
そう言って、田中くんが指さしたのは……家、と言うよりも大きなシャッターのある町工場のような建物。
吉岡 茉優
吉岡 茉優
え?……ここって、
田中 哲太
田中 哲太
うちの父ちゃん、毛布職人やねん。
……あぁ、知らん?
泉大津は、”毛布のまち”やねん
吉岡 茉優
吉岡 茉優
”毛布のまち”?
田中 哲太
田中 哲太
そや!なんでも国内で生産される
毛布の90パーセントがここ泉大津市と
その近隣地域で作られてるんやって
吉岡 茉優
吉岡 茉優
へぇ、知らなかった……!
田中 哲太
田中 哲太
まだまだ、吉岡の知らん
この街の良いとこいっぱいあるで
吉岡 茉優
吉岡 茉優
……うん!
少しずつ、知って行きたいな。
街のことも、クラスのみんなのことも
哲太の父
お?哲太、おかえり
田中 哲太
田中 哲太
あ、父ちゃん。
ただいま
突然、建物の中からひょこっと顔を出した男性は、どうやら田中くんのお父さんらしい。

不意打ちの登場に心臓がドキッと音を立てた。
哲太の父
なんや?
生意気に彼女か!
田中 哲太
田中 哲太
あほか。
転校生が迷子になっとったから
送ってく途中やってん
吉岡 茉優
吉岡 茉優
あ、東京から来ました。
吉岡 茉優です
哲太の父
なんや、転校生やったか。
分からんことや困ったことがあれば
なんでもコイツに聞いたらええで
優しそうな笑顔を浮かべた田中くんのお父さんは、”な?”と田中くんに視線を投げる。
田中 哲太
田中 哲太
おう、任せとけ
吉岡 茉優
吉岡 茉優
はい、ありがとうございます
哲太の父
明日は学校も休みやし。
哲太、せっかくやから街を案内してあげたらどうや?
吉岡 茉優
吉岡 茉優
え?
田中 哲太
田中 哲太
あー、それもそうやな!
吉岡、明日なんか予定ある?
吉岡 茉優
吉岡 茉優
ううん、予定はないけど
田中 哲太
田中 哲太
ほな決まりな!
明日、俺がこの街、案内したるわ
ニッと笑って、告げられた言葉に目を丸くする。
とはいえ、内心すごく嬉しくて。
吉岡 茉優
吉岡 茉優
いいの?
ありがとう、嬉しい……!
さっきまで感じていた不安なんて忘れてしまうくらい、明日のことが楽しみな自分がいた。

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