田中くんと並んで歩く道。
朝歩いた道と、似てるような……違うような。
まだまだ、この街に慣れるまで時間がかかりそうだ。
お互い自転車を押しながら歩いてる今、聞こえてくるのはタイヤの回る音。
……友達作りどころか、今日はクラスのみんなとまともに会話すらできなかった。
”な?”とドヤ顔で私の顔を覗き込む田中くんは、冗談を言ってるようには見えない。
”本気でそう思ってる”って感じ。
調子のいい田中くんに、思わず声を出して笑ってしまう。そんな私に、田中くんは”笑うな”と言いながらもどこか優しい顔をする。
私のことを思って言ってくれてるんだって思うと、自然と頬は緩んで、胸の辺りがほっこりした。
見覚えのある道に、ホッとする。
よかった、ここからなら1人で帰れる!
そう言って、田中くんが指さしたのは……家、と言うよりも大きなシャッターのある町工場のような建物。
突然、建物の中からひょこっと顔を出した男性は、どうやら田中くんのお父さんらしい。
不意打ちの登場に心臓がドキッと音を立てた。
優しそうな笑顔を浮かべた田中くんのお父さんは、”な?”と田中くんに視線を投げる。
ニッと笑って、告げられた言葉に目を丸くする。
とはいえ、内心すごく嬉しくて。
さっきまで感じていた不安なんて忘れてしまうくらい、明日のことが楽しみな自分がいた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。