昨日、帰り道で迷子になったこと。
たまたま通りかかった田中くんに助けてもらったこと。
それから、田中くんに街を案内してもらう約束をしたこと。
家に帰ってお母さんに話したら、お母さんの田中くんへの好感度が果てしなく上がってしまった。
結果、今朝家を出る前に、私の格好を念入りにチェックしたお母さんは、”これならバッチリ!”なんて満足そうに笑った。
もう……。デートじゃないってのに。
田中くんとの待ち合わせ場所、泉大津駅までやって来た私は、田中くんの言っていた”おづみん”を探してキョロキョロと周りを見渡した。
実は、昨日田中くんに言われるまで”おづみん”を知らなくて、田中くんに”泉大津市のゆるキャラやで!”と教えてもらった。
気になって家に帰ってからネットで調べたら、思った以上に可愛らしいヒツジの”羊精”だった。
ちなみにおづみんは泉大津市の毛布工場で生まれたらしい。もしかして田中くんちだったりして……なーんて。

おづみんのブロンズ像に気を取られていた私は、近くに手を振る田中くんを見つけて、自転車を押しながら駆け寄った。
どうやら今日は、自転車で色んな場所に行くらしい。
こうして、私の泉大津市巡りは、昨日の学ラン姿とはまた少し違った雰囲気の田中くんと、雲ひとつない青空に恵まれて幕を開けた。
***
田中くんがまず連れてきてくれたのは、駅からすぐの場所にあるテクスピア大阪という建物の中の泉大津市立織編館。
入口では、可愛いおづみんのパネルがお出迎えしてくれた。
”当たり前”とでも言いたげに、話す田中くんがキラキラして見える。
田中くんが一生懸命話してくれるのが嬉しくて、気付けば夢中になっている自分がいた。
内気な私だけど、田中くんと一緒だと少しだけそれが薄れるような気がしてくる。
やっぱり、田中くんは不思議な人だ。
手織り体験ってどんなことするんだろう。
……おづみんグッズも興味あるな。
この街に引っ越して来た記念に何か一つ、欲しいかも。
知らない街。知りたい街。
これからここが、私の街。
たくさんの初めてに出会う、今この瞬間のワクワクを、田中くんと分け合っているんだと思うと嬉しかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。