第4話

黄色い自転車の記憶
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2018/04/02 08:07
記憶を無くしてから、徐々に生活のなかで少しずつ元の記憶と新しい記憶とが混ざりあって真っ白な記憶(ノート)がさまざまな色に彩られていった。

ある日の帰り道、今日は二人が委員会で帰りが遅くなるというので一人で帰っていた。いつもの川沿い。やっぱり一人だと寂しい・・・。と思いながら歩いていると、
「だっ。」
何かが頭に触れた。桜の枝だ。もう・・・
「もうそんな季節なんだね。」
と枝に出来たつぼみを見ながらつぶやいた。その時だった。彼に出会ったのは。キキッというブレーキ音がすぐそばで聞こえた。私を少し行った先に黄色い自転車があって、背の高い男の子が乗っていた。突然振り返ったその顔に当然ながら見覚えはない。
「尾井河だろ?久しぶり!」
「ひ、久しぶり?」
相当困った顔をしてたんだろうか。その男の子の顔が困った顔になり、
「覚えてない?西岡 渉(ニシオカ ワタル)。小学校の時に転校しちゃったけど、席が隣だった!」
コロコロ変わる表情が面白くて、思わず笑ってしまった。
「え、どうしたの?なんかした?」
「いや、面白くて。ごめん。」
そして軽く笑ったあとに私はこの人に今の事情を話しても大丈夫だと思い、話すことにした。簡単に話してはいけないことだと分かっているけれど、この男の子の笑顔がキラキラしてて・・・そんな理由から話してしまった。

――――――――――「そんな事があったのか・・・。」
「だから、覚えてないんです。すみません。」
それからその男の子は少し考えた様子で、いきなり顔をあげて
「じゃ、改めて自己紹介しようよ!俺は西岡 渉。ってさっきも言ったか?アハハハ。」
「アハハそうだね。私は――――――――――――。」
 
      私は誰・・・?

『購買行かなきゃ!咲希はお弁当あるの?』
     『咲希はいつもお弁当作って貰っ
             てるよね~』
『じゃあ私だけかぁ~』
         『待って。』―――――――――

その瞬間、頭に記憶が流れ込んできた。滝のように全てが。
ハッ・・・ハッハッ・・・ハッ・・・
「お、尾井河?だ、大丈夫?」
い、息が息が出来ない・・・。
私の視界が暗くなり、気づいたときにはもう倒れ込んでいた。
「尾井河‼」

救急車のサイレンが鳴ってる。沢山の声が聞こえる。
(あぁ・・・思い出した・・・。あの黄色い自転車は渉だ。キラキラしたあの笑顔が私は好きだったんだ。)

そのまま私は気を失った。

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