第2話

夕焼け色の記憶
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2018/03/31 11:12
誰?誰?知らない・・・。こんなところ、知らない。

「咲希!?大丈夫!?」
「どうしたの?咲希(サキ)!?」
私に寄ってきた二人は、
「誰?」

「「え?」」
驚いた顔をして二人は目の前に立ち尽くしていた。周りがうるさい。私は壁に手をついて立ち上がった。ズキズキと頭の後ろの方が痛い。私が頭に手をやると、周りにいた大人の人のうちの一人が話しだした。
「尾井河(オイカワ)。今救急車呼んだから、下に行くぞ。立てるか?」
そして肩に手をやろうとしたから、私はその手を怖く感じあとずさった。怖くて声がふるえていて言葉がハッキリと聞こえていただろうか?パニックの中、震える喉の中から声を振り絞った。
「あ、あ、あなたは誰なんですか?ここどこですか?救急車?何か私はしたんですか?」
あまりに大きな声が出ていたみたいで周りにシーンと沈黙が流れ、またどよめき出した。
さっきの二人が私に話しかけてきた。それで私は今の状況をほんの少し知ることが出来た。
「どうしたの咲希?私はやよいだよ。月島やよい(ツキシマ ヤヨイ)。」
「うちは、羽賀湖夏(ハガ コナツ)!覚えてるよね?いつも“こなっちゃん”って呼んでたじゃん。」
このふたりは私といつも一緒に居る人なのかな?知らないという不安が心をかきみだす。でも、このふたりなら私の事を知っているかもしれない。1つ、1つだけでいいから
「あの!」
「どうしたの?」
「私って誰・・・ですか?」
困った顔をしたから今の私の事も話した。
「何が何だか分からないんです!本当に!あなたたちのことも、周りの人も知らないし、ここはどこですか?分からないんです!何も!何も分か――――――――――」
そこで私は言葉が続けられなくなってしまった。目から涙がボロボロ出てきて、耐えられなかった。分からない、この“今”に関しても。そのうち、周りのガヤガヤした中から1つのワードがとびたした。
     『記憶喪失!?』

それから救急車に乗せられ、病院へ向かった。意識はあったので自分の足で救急車から降り、案内されるまま歩いた。沢山の機械を使い、検査とやらをした。全ての検査がおわりある部屋に案内された。そこには白衣を着た病院の先生らしき人と30代くらいの女の人とそれより少し老いた男の人が居た。そして心配な顔をしていた二人がいきなりこっちに来た。と、思ったら抱きついてきた。
「咲希‼大丈夫!?」
「大丈夫かぁ!?」
「お父さんたらもう涙ダラッダラで。」
「しょうがないだろ。大切な娘が階段から落ちたなんて聞いたら・・・うっうっ・・・。」
なんかトントン拍子に話が流れていってるけど、
「ごめんなさい!」
私は軽く頭を下げた。ちょっと痛みがあったがすぐにひいた。
「何?咲希が謝るなんて珍しい。」
「謝らなくていいんだぞ。」
その笑顔はとても優しかった。でも
「私お二人の事知らなくて。」
「え?」
凄く驚いた顔をしたあとすぐに深刻そうな顔をして顔が青ざめていた。
「あ、いや、嫌いな訳じゃないと思うのですが、あの・・その・・・。」
今の状況を伝えるのにふさわしい言葉を探してる間に
「ま、とりあえず座ってください。」
と医師から一声があった。

「唐突に申し上げますと、娘さんは記憶の一部が喪失してしまったようです。」
私たちの間に沈黙が流れた。
「記憶は戻るんですか?」
「明確にいつとは申し上げられませんが、記憶の断片から突然思い出す可能性は十分にあり得ます。ただそうしたときに、娘さんが耐えられないような苦しみも思い出される可能性もありますのでその点だけお気をつけて貰いたいと思います。」

病院を出て家へ帰る途中の車内で、家族の誰も一言もしゃべらなかった。車内からボーッと外を眺めていると、沢山あった建物と変わって広く広く田んぼが広がっていた。
「わぁぁ。」
夕焼けが下から微妙に色が変わって、まだあおぞらが残ってるなかの夕焼け空はとてもとても綺麗だった。美しかった。なんでだろう、こんなに胸が締め付けられるのは。泣きたく・・・なるのは。
 私に気づいたお母・・・さんが、やっと口を開いた。そして優しい声で聞いてきた。
「どうしたの?」
「綺麗で、あまりにも綺麗で。私この景色見たことがある気がするんです。」
「そうだね。綺麗だね。咲希は空の写真を必ず撮ってたもんね。」
その後家路の途中、暖かな夕焼けの光と泣いた影響でずっと眠っていた。

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