夕暮れの日差しが強い今の時間帯。
生徒たちは部活動や下校のため、賑わいでいる。
私はもう使われていない南校舎の音楽室に来ていた。その部屋には、1つのピアノと1人の男の人。男の人は、1つ年上の先輩で、名前を 深瀬 類という。
私が先輩と初めて会ったのは唯の偶然だった。
この校舎で時間を潰していた。教室で唯 椅子に座って時間が過ぎていくのを待っていた。やる事も無く唯、ひたすらに 。
クラスが嫌い。
学校が嫌い。
それでも、学校に行くのは 義務教育であるため。
そんな時に出会ったのが、先輩の奏でるピアノだった。
なんとも言えない浮遊感を味わった。まだ、10数年しか生きていないけど、˹ 幸せ ˼ だと感じさせられる音だった。
最初は聴くだけで満足だった。でも、後に弾いている人が気になった。
── どんな人が弾いているのか
その好奇心だけが勝ち、恐る恐る 音のする方に向かった。
眼が奪われた その言葉が綺麗に当てはまるのだとわかった。
それ程までにとても上手い演奏。けど、フィニッシュに向かう最後の最後の本当に最後の1音。 それを、1つずらして弾いてしまったのか、鈍く締りの無い音が響き渡った。
私は、勢い余って笑ってしまった。それは、盛大に。
笑いを堪えながらも謝る観客とそれを無言で見つめる演奏者。
それが、私と先輩の初めての出会いだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。