第5話

ヘッタクソ
25
2021/03/16 05:47
中学の卒業式。

式典が終わると先輩は何時もの校舎に来ていた。此処で会うのも今日で最後。
戸田
先輩、留年しろー
深瀬 類
ひっでェ 。最初に言う台詞がそれかよ。まぁ、良いけどよ
戸田
先輩とタメだったら良かったです。でも、そしたら 出会ってない気がします
深瀬 類
確かにそうかもな
まさかの一致な答えに私は先輩の方をみて笑ってしまった。この時間が楽しくて、あっという間に時間が過ぎてしまう。
戸田
ねぇ、先輩。約束してくれませんか?
深瀬 類
ん?
戸田
私、先輩と同じ A高に通います。そして、また先輩の後輩となります
深瀬 類
おう
戸田
私に 学校へ通う意味を見出した責任取ってくださいよ?
深瀬 類
一生かけて 責任取ってやるよ
戸田
中学生のいう台詞じゃないですけど、告白ですか?
深瀬 類
………
戸田
深瀬類先輩。私が、A高に通うことが決定して、A高で まだ先輩がピアノ弾いてたら 先輩の彼女にしてください
深瀬 類
んだよ、それ
遠回しの約束。元い一方的な告白。
戸田
私は、先輩目当てでA高に通うんですから 
深瀬 類
俺目当てって、
戸田
実質 、当たってると思いますよ? まぁ、それより 先輩ご卒業おめでとうございます

冗談で言ったつもりだったのだろうか、先輩は呆れを通り越して何かを悟った顔をしていた。私はそんな先輩の顔を横に微笑み乍、卒業の祝いを述べた。

戸田
そうだ、私 1曲だけ弾けるんですよ? ピアノ
ピアノをみて、私は唯一弾ける曲を思い出した。

ピアノに近付き、蓋を開け、手に掛ける。
椅子を引き、深く腰を落とす。

初心者の私が初めて先輩の前でピアノを弾いた。まだ、たどたどしい音色だが、˹ 先輩 ありがとう ˼ の思い と ˹ 先輩 大好き ˼ の思いを込めて 弾いた。

フィニッシュはちゃんと弾けたが、めちゃくちゃ間違えた。
深瀬 類
ふっ … ヘッタクソ

あの時と逆の立場になった気がした。
初めて出会ったあの日。フィニッシュの音を外した先輩に笑って謝る私。 その光景が脳裏に焼き付いた。

あの時から私の歯車はゆっくり ゆっくり回っていたのだと思う。

戸田
先輩、卒業おめでとうございます

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