忘れません
私の名前を読んで、先生、次に何を言ってくれたか、覚えていますか?
希望を結んでゆうきになるなんていい名前だな
そう言ってくれたんですよ?
・・・嬉しかったなぁ。
ほんというと、私、自分の名前あんまり好きじゃなかったんです。
希望に結ぶ、悪い意味の漢字なんかじゃ勿論ないし、ゆうき、という響きじたいは嫌いじゃない
...でも、どうしても、自分が名前に負けちゃってる気がして。
ねぇ先生、私、婚活始めたんですよ?
ねぇ先生、私、ずっと身長伸びたんですよ?
ねぇ先生、私、まだ覚えてますよ?あの日のこと
先生は、忘れちゃいましたか?
え?
驚いた声は、かすれて美琴には届かなかった。
美琴に、先生のことが気になっていると伝えたのは、ほんの1ヶ月前だった。
好き、ではなく、気になる、と言った。
せっかちで思い込みの激しい美琴のことだ。好きと正直に伝えたら、私のため、といって(強引な)協力をし、先生に迷惑をかけることになるかもしれないと考えたから。
でもまさか、ここまでハッキリと聞かれるなんて。
うそうそうそ!
聞かれてたのっ!?
自然と頬が熱くなる。
そう言って先生は美琴の頭を乱暴に撫でる
そう言いながらも、美琴は心なしか楽しそうに見えた。そして、先生も。
また、会話にはいれない。
私のか細い声は、二人の雰囲気にはいっていけず、跳ね返されたように感じた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!