「さとる…?」
薄暗い廊下。呆然、そんな表現がぴったりなほど頼りない様子で、呪術師最強と呼ばれる男は私の前に立っていた。
傑が居なくなり、処刑対象になった。
その事をいちばん辛く思っているのは、きっと悟だ。
彼はふらふらと一歩一歩、私の方に近づいてきて…突然抱きしめられた。というより、寄りかかられた。目の前が見えなくなる。あまりの重みにぐらりと倒れそうになるけれど、必死に踏ん張る。
「ちょっ、悟…」
「なあ、部屋入れてくんね」
1拍呼吸を置いたあと、悟はもう一度言った。
「ねえ、部屋に入れてくれないかな」
丁寧に言い直して。
「…ッ」
思わず息を飲む。年下が萎縮してしまうから言葉遣いを治せと、悟に諭していた傑。
「…いいよ」
思わず答えた。
悟も私も年頃の男女だけれど。
こんな迷子の子供みたいな人を放っておけなかった。
大きな体なのに、どこか頼りなくて。
目を離すと消えてしまう気がした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!