第8話

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2019/05/24 10:30
「あっ、日向、山口。影山は日直で遅れるらしいから先にアップしといてな。あと、今日は運動部の3年の集まりがあるからもう抜ける、すまん」
「あっ、大地さんあざっす!お疲れっした!」
「お疲れ様です!」
「3年いねーのかぁ、レシーブスガさんに見てもらおうと思ってたのに」
「おれも旭さんとサーブ練したかったなぁ」
体育館のドアを開けると、思ったよりも人数が少なかった。
「おーっ、日向、山口!早くアップ始めんぞー!」
「ウッス!」
人数が少ないから、月島くんとの物理的な距離は自然と近くなる。
距離が近くなるほど息苦しくて、死にそうだった。
心做しか月島くんも息苦しそうに見えた。
「よーし、パス練始めんぞー!」
田中さんがそういった直後、どさりと音がした。
「つっ……月島?!」
「おい、月島!どうしたんだよ、おい!」
赤い顔で苦しそうに喘いでいる。
「身体がっ……熱く……」
「熱か?!くっそ、3年いねえのに……」
「あっ……おっ、俺、保健室連れていきます!」
なんでだろう。言葉が口から滑り出た。そして後悔した。月島くんが目を覚ましたら逃げ場がないじゃないか……。
「お、おお!助かる!落ち着くまでそばにいてやってくれな」
「は、はい……!」
ぐったりした月島くんの腕を肩に回して、細長い体を半ば引きずるようにして保健室へ向かった。運悪く、誰もいなかった。
とりあえず、ベッドに寝かせる。
「月島くん……大丈夫……ですか?」
「……ハア、は、うっ……」
本当に苦しそうだ。何が原因なんだろう。
赤い頬に手を伸ばそうとした次の瞬間、俺は頭硬いものでを思いっきり殴られた。
「ドウシテ……あなたがいるの?邪魔しないで……」
「痛っ……君は……」
月島くんに告白した子だ。手には救急箱を持っている。
「彼は私のモノなの。誰にも邪魔させない」
「月島くんは……モノなんかじゃない!」
「貴方には関係ないでしょ。私がどれだけ焦がれているか知らないでしょう」
「君が?月島くんを?好き?笑わせんなよ」
「なにがわかるのよ……!」
「俺の方が、もうずっと、狂ってるくらい好きなんだ。君の比じゃないくらい」
「え……」
「君には分かる?性別という壁で隔てられた、一番近くて一番遠い距離。こんなに苦しいんだよ、分からないでしょ」
やっぱり。俺は月島くんが、ツッキーが、大好きだ。
「俺だって、ツッキーが大好きなんだよ。だから、消えて?」
「……ッ」
その時、後ろでもそりと音がした。
「君さ……これ媚薬だよね。こんな犯罪まがいのこと、よく出来るよね」
「!ツッキー……」
「犯罪……?」
「人が死ぬこともあるんだよ。それに山口をそれで殴ったよね。そんな浅はかな考えで人に迷惑かけるなんて、何様なの。二度と僕の前にその顔現さないでくんない?」
「でっ、でも……そんなこと、知らな……」
「黙れ。二度と僕と山口に近づくな。そして……山口を傷つけたこと、後悔したって知らないからな」
「ひっ……」
女の子はバタバタと逃げ出して行った。
「ツッキー……大丈夫、なの?」
「僕の前に自分の心配しなよ、馬鹿」
「俺は平気……それより、媚薬って……」
「うん。暑いし、汗出るし、なんか……その、変」
「そ、そっか……」

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