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第1話

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2018/11/24 13:44
きっかけは日常だったはずのことだった。あんな所見たくなかった。見なければよかった。先に帰ればよかったんだ。
そうすれば、こんなに胸が張り裂けそうになることもなかったのに。
ツッキーが、放課後女の子に呼び出された。
そんなことは別にどうでもよかった。ただ、少し珍しいなとは思った。大抵の女の子は、俺に手紙を預けていたから。そんな安っぽい想いを連ねた紙切れを僕の手からツッキーに渡せだなんて。僕がそれのせいで、幾つの夜を眠れずに過ごしたかも知らないで、いい気なもんだ。
でも、その子は俺なんかに見向きもせずに、ツッキーだけ見据えて、言った。
「放課後、第2体育館の裏まで来てください。まってます」
僅かに頬を紅潮させて、それだけ言うと走って逃げていった。
華奢な女の子だった。肌が病的に白いせいで、長い黒い髪がすごく印象的だった。
「…なに、あれ。普通自分の名前くらい名乗るデショ」
ツッキーは怪訝そうに首を傾げた。
「やっぱり、ツッキーはモテるね!」
「…んまぁ、当分女子には興味ないけどね。部活あるし、時間のムダ」
俺は心底ホッとした。
「そ、そっか!でも、俺もツッキーの100分の1でいいから、モテたいな」
違うよ。そんなこと思ってない。俺はそんな、安っぽくてふわふわしたピンク色の、チープなものが欲しいんじゃない。
ただ1人、俺の瞳に映る、月島蛍ただ1人のココロが欲しい。
それ以外になんて要らない。
「まあ、僕より先に山口に彼女なんてできたら悔しいけどね。その時は考えようかな」
「ツッキーひどい!」
「冗談デショ。怒った?」
ツッキーが俺の顔を覗き込んだ。
眼鏡の奥の色素の薄い瞳に映る俺、山口忠は酷く滑稽で、醜く見えた。
そんなことわかってる。俺は、せめてツッキーに悪い虫がつかないようにそばにいたい。でも、そんな俺はツッキーの隣になんて相応しくない、穢れた奴だ。
「今日、山口、先帰ってて。部活ないし、さっさと済ませて帰るけどね」
「うん、わかった!」
その時まで、俺は浅はかにも安心してた。あの子は他の子と同じようにフラれると思ったから。でも、甘かった。
どんなことにも“永遠”なんて、ないんだね。

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