僕は今、大手企業に就職し営業マンとして働いている。
この会社に勤めているなんて彼女に言ったら、どう思うだろう。
なんて、にやにやしながら疑いの目を向けるだろう。
でも今はもう、彼女に会うことはできない。
中学3年生の夏。
彼女は口を尖らせながらそう言う。
僕がこう言うと、彼女はいつもの笑顔でニコッと笑い、
と言った。
彼女と僕は普通に話せるくらいまでになっていた。
それもこれも、全て彼女のおかげ。
彼女がいるから僕がいる。そう思った。
でも、2学期の始業式。彼女は来なかった。
僕は心配になった。
学校を休んだことの無い彼女。
始業式の時に限って、休むなんて何があったんだろう。
夏休み中に何かあった?
今まで、クラスメイトが欠席しても何一つ動じなかった僕だけど、
こんなにも、彼女を心配するのには理由があった。
それは、彼女が僕の中で、とてつもなく大きな存在になっていたからだ。
僕はあの時、勇気を出してクラスメイトに声をかけたんだ。
でもクラスメイトは、まるで汚いものを見るかのような、冷たい目でこう言った。
つい、声が出た。
どうして、クラスに彼女がいないことになっているんだ。
僕は咄嗟に、携帯を見た。
彼女の電話番号、メールアドレス全て消えていた。
彼女に連絡先を教えてもらった時に、メモをしたメモ帳も誰かに破られたように、そのページだけ無くなっていた。
僕は無意識に呟いた。
それから僕は、彼女とのことをなかったことにはできなかった。
でも、決まっていたように私立の高校に入学し、何事もないように大学に進学した。
そして、今に至る。
僕は、世の中をふらついている人たちに比べたら、勝ち組だ。
だからって、今までと同じように一人で過ごしてきたわけじゃない。
僕は、彼女に貰ったテクニックを利用して、高校でも大学でも友達を作り、青春という青春を送ってきたつもりだ。
でも、彼女に対する思いは、昔とは違った。
こんなふうなテクニックを教えてくれた彼女に、感謝の思いはなかった。
僕の中での彼女は「変わった人」「よく笑う人」「初めての友達」から
「裏切り者」「最低な人」「消えた存在」と変わっていた。
だから僕はもう、裏切られたり、不安になったりするのは嫌だった。
高校や大学、今の企業の同期たちには失礼だけど、本気で友達だなんて思ったことがない。
これまでも、僕の友達はみんな偽りの関係だ。
僕はもう、何もつくらないと決めたから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!